目で一礼。
トークショー前半、清水マリさんのお話が終盤にさしかかった頃
会場の最後列に座った私の席の、二つほど向こうで
ご自身のトーク内容を再確認していた古谷さんは
清水さんからバトンタッチされ、最前列の講演席に移る際
私の目の前を横切る為に、視界を遮ることを気遣われたのでしょう。
失礼しますという意を示す目礼を、私に下さいました。
ほんの一瞬の出来事ながら、私にはそれが非常に印象に残りました。
古くから日本人の美徳とされていたこういうマナーは
年々おざなりになっていく上
分かっていても、なかなか出来ることではありません。
社会人として、そうした立ち振る舞いが身についている方。
そういう方なんです。われらのウルトラマンは。
さて。ちょっと間を置いてしまいましたが
今回は5/29に行われたイベント「昭和を彩るお二人の先駆者たち」
の感想記事後篇、古谷敏さん篇です。
ちなみに前篇、清水マリさんの講演については
コチラの記事をごらん下さい。
http://spectre-nebura.cocolog-nifty.com/cultnight/2011/06/post-4588.html
また会場の写真等、当日の概要は
スタッフでもあるお仲間・珠恵さんのブログ『たま・ホーム』でご覧下さい。
http://blogs.yahoo.co.jp/btykj542/61077726.html
ところで。もし読者の皆さんが当日の会場にいらっしゃっていたら
清水さんと交代された古谷さんの口から出た言葉に
ちょっとした違和感を覚えられたのではないかと思います。
なぜなら。この日の古谷さんのお話は
そのほとんどの時間が、東日本大震災の義援金の行き先や
復興支援の姿勢に関する、厳しいご意見に割かれていたからです。
他の参加者の方々もご自身のブログ等で書かれていましたが
この日、古谷さんはこんなお話をされました。
『役者には、タブーとされる三つの話題がある。
政治の話題・宗教の話題・そして仲間内の裏話。』
芸能人に限らず、私も含め映像業界の関係者なら肝に銘じている事です。
常に公平な思想を求められ、夢を与える立場である俳優・芸能人にとって
これらの話題に触れることは、いたずらに反対意見を招くばかりか
主張の本質が正確に伝わらない場合が多い事もあって
ほとんどの場合、良い結果には繋がらないからです。
この日の古谷さんのお話も、冒頭のような誠実なお人柄にたがわぬ
非常に真摯かつ、憤りに溢れた内容でした。
こういうクローズドイベントの場だったゆえ
古谷さんもある意味、タブーを破ってお話下さったのだと思います。
ですが、私も業界人の端くれ。
前述のタブーについての、古谷さんのお考えはよく理解できます。
ですから残念ながら、そのお話の内容をここで書き残すことは
同業者の仁義という面からも、差し控えたいと思います。
ただ一つ言えることは、その古谷さんのご主張は
震災後の私の考えと、非常に通じるものがあったという事です。
復興支援は、自分の身を切る覚悟が必要。
被災地が求めているのは「現金」。
少なくともこの想いは、古谷さんと私は強く共通しているとだけ
申し上げておきましょう。
その後、自著「ウルトラマンになった男」の1エピソードを採り上げ
ご自身が怪獣アトラク会社・ビンプロモーションを興すいきさつを
お話された古谷さんですが
ウルトラマン放送当時のエピソードとして有名な
「過酷な撮影に降板を考えた古谷さんに、ふたたび現場に立ち向かう勇気を与えた
”バスで出会った子ども達”」のお話と並んで
1968年、怪獣アトラクションを無料で行うというビジネスモデルのヒントが
一人の子どもから与えられた旨を、今回も回想されておられました。
「僕はいつも、子どもに助けられる。」
その言葉に、子どもに対する古谷さんの深い想いが込められていたと思います。
識者諸氏はご存知かもしれませんが
そのビンプロも、1991年に解散という憂い目に遭いました。
あくまで私の推測にすぎませんが、その後の古谷さんが味わわれた辛苦は
失礼ながら、筆舌に尽くしがたいものがあったのではないでしょうか。
「職業格差」などを意味するご本人のお言葉や、前述の震災への厳しいご意見
また冒頭の目礼のように、人を分け隔てせず真摯に応対下さる姿勢に
苦労に裏打ちされた人間の成熟度が、滲み出ていたからです。
当日の参加者の皆さんも、同じ思いを持たれたと思います。
どこまで他者に敬意を払え、礼節を重んじられるか。
そういう姿勢が、その人物の人生の有り様を物語り
人間としての完成度を示すという事は
さまざまな出会いを通じ、私も痛感しています。
そういう所に、隠し通せない人間の本質が出るのです。
さて。そうした話題から一転、恒例の質問タイムとなりました。
参加者の皆さん手ぐすね引いて、この時間を有効活用しようと
挙手の嵐になるかと思われたのですが、なぜか一瞬の静寂が。
それまでの重いお話に、皆さんちょっとひるんだのでしょうか。
その間隙を突くように、司会の珠恵さんから絶妙のタイミングで
私にお声がかかりました
例の意見書を、ここで渡せというサインです
いやー実に場を読んだ、お見事な采配。
この時の珠恵さんのナイスパスを、私は今も感謝しています
当初私は、お仲間の皆さんからのご意見をまとめたこの『ファンからの回答』を
イベントの前後にでも、コッソリと古谷さんにお渡しするつもりでした。
イベント中の貴重なお時間を頂くのも恐縮でしたし。
ですからまさか、こんな状況でお渡しする事になるとは思いもよらず
意見募集経緯の説明もしどろもどろになっちゃいましたが
おーそんな事してくれたのと、古谷さんも満面の笑みでお迎え下さいました
お届けする為、古谷さんのお席へ向かう足どりもおぼつかなくて。
でも取りまとめ役としては、きちんと責任を果たさなきゃならないと。
その緊張から手足までこわばっちゃって、さながら卒業証書の授与式状態
もっとも今回は、私の方が校長先生役でしたが
ありがたくも参加者の皆さんからは、拍手まで頂いちゃって
でも以前の記事でもお話しましたが、古谷さんには本当に喜んで頂けましたよ。
「宿題」という言葉の意味を説明した時も、うんうんと頷いて下さいました。
上の写真は、以前の記事とは別のものですが
古谷さんの口が、ちょっとすぼんでるでしょ。
実は写真を撮る瞬間、古谷さんは「ありがとう」とおっしゃって
その直後にシャッターが下りたので、こんな写真になっちゃったという訳
ファンイベントへの参加経験が乏しい私ゆえ
こういう事がよくあるかどうかは存じませんが
少なくとも今回は、演じ手と受け手のキャッチボールが成立したと思いますし
会場にも、良い空気が流れていたと感じます。
その後は、清水マリさんが再びご参加。
お二人では初の試みとなる、昔話風の朗読劇が繰り広げられました。
内容はいわゆる「わらしべ長者」風の素朴な民話で
ご夫婦役となったお二人は表情タップリに、楽しく演じて下さいました。
こういう一幕を見ると、清水さん、古谷さんとも
今もって現役の声優、俳優さんであることがよく分かります。
前に出る声量、豊かな声の表情、顔の表情さえも決して衰えていません。
BGMやSEに頼らないこういう朗読劇、しかも民話のような素朴なストーリーは
演じ手の実力があらわになりやすいので、それなりに難しいのですが
あえてそれを選んだあたりに、お二人の自信が窺えます。
さらにその後は、お二人がご同行されたお仕事などで感じられた雑談に。
ここで偶然にも、今回の意見集に載せた拙意見に関連するお話が出まして。
(この時点で古谷さんは意見集を未読だった為、この話題は本当に偶然)
それは清水さん、古谷さんに加えウルトラシリーズ過去作品の
歴代スーツアクターが何名か同席された
お仕事のエピソードだったんですが
それを聞いた私のユルい脳ミソはフル回転、一つの質問を用意しました
ほどなく訪れた二度目の質問タイム。
ここで聞かなきゃ二度と聞けないと、鼻息荒く手を挙げた私は
古谷さんにこう尋ねました。
お渡しした意見集に、私個人は
「ウルトラマンは敵に拳を見せないヒーロー」という意見を書いたのですが
先ほどのお話のように、かつてウルトラマンを演じたスーツアクターさんが集まる時
お互いの格闘スタイルなど、演技プランについて話し合う事などあるんでしょうか?
その質問に対する古谷さんの答えは・・・
ごめんなさい。実はコレも、ちょっとお話できないんですよ。
もちろん古谷さんも、「敵に拳を向けない」という私の意見に
はっきり「そうです」とお答え下さいましたから
あの開き手も、明確な演技プランに基づいていたのでしょう。
続いて、ご自身の演じたウルトラマンと
その後のウルトラヒーローのスーツアクトの違いや
なぜそうなったのかという顛末についてもお話下さったのですが
自著『ウルトラマンになった男』では
そこは書けなかった、書かなかったとおっしゃっていました。
このお答えから私は、これは会場だけのオフレコ解答と解釈し
業界人の仁義として、記事では差し控えざるを得なかったのです。
古谷さんご本人が著書で書かなかったなら
どんなに興味深い事実でも、私には書けませんから。
ただそれでは、読者の皆さんにも申し訳ないですから
私なりに申し上げられるギリギリの線で
お答えの内容を要約すれば。
スーツアクター各々が持つプライドと
「生みの苦しみ」に匹敵する「変えの苦しみ」。
識者の皆さんですから、こう書けばもうご理解頂けると信じます。
映像制作の現場って、今も昔もそういうものなんですよ。
もう私なんて、痛いほど分かります。
他にも古谷さんは、イベンターとしての視点から新作のゼロへのご意見など話され
普段なかなかお聞きできないお話に、非常に充実した時間を過ごせました。
金城哲夫氏の人となりに関する質問にも、お酒が強かったと回想し
三十代の若さでの他界を惜しみながら
清水さんと二人、自分たち凡人は長生きしちゃうんだよねと笑う古谷さん。
「俺なんか、死んだらゾフィが来ちゃうからね」なんて
リアルタイム派狂喜、世界で古谷さんただ一人しか言えないウルトラジョークで
会場を沸かせた後は
イベント恒例、ファンとの交流タイムとあいなりました
さあここで、以前のお話通り
清水さんにはアトムに
古谷さんにはケムール人ソフビにサインを頂いたのですが
こんなチャンスを逃す私ぢゃありませんから
古谷さんがケムールにペンを走らせている間に
例の『2020年の謎』を聞いてみました。
あ、あの走り方には、指導や演技プランがあったんですか?なんて。
「いや、アレは普通に走ったんだよ。こお~ゆう~ふうに~」
なんと古谷さん、サインを書き終わったと同時に
私の目の前であの「ケムール走り」の手振りを実演して下さったのです。
という事は、あれが古谷さんの普段の走り方って事?
45年の時を超え、初めて明らかになるこの真実!
いやーコリャ末代までの自慢。
ウルトラマンよりケムールポーズに狂喜する私も私ですけど
これでウルトラマン、ケムール人が揃ったから
次にチャンスがあったらぜひ、ラゴンのソフビにもサインしてもらって
勢ぞろいした古谷スーツ三英傑を前に
熱~いアキコスープで一杯やろっと。
もちろんこんな風に、アトム兄妹も添えてね
鉄腕アトム。ウルトラマン。
イベントのタイトル通り、まさに昭和を彩った二大ヒーローは
誕生後半世紀近くを経てなお、お元気でいらっしゃいました。
そして今も、子ども達に夢を与え続けているようです。
当日唯一の子ども参加者だった、7歳の男の子が
この交流タイムの主役のようなものでしたが
彼の前でアトムのお面をかぶって「本物の声」を演じる清水さん
ウルトラマン、アマギ隊員の銘まで入れた大サービスのサインを持たせ
ご自身の膝へ乗せて写真のポーズをとる古谷さん
その周りで拍手する参加者たちと、本当に和気藹々とした雰囲気で
最後まで温かさに満ちた、楽しいイベントでした。
お二人が現役キャストでない分、坊やには今ひとつピンと来なかったようですが
彼が大人になった頃、この日の事を誇らしく思い出すに違いありません。
そんな風に、子どもの思い出の1ページを彩れる存在。
それは、ヒーローだけに与えられた特権です。
暴風雨を押してファン達が駆けつける、この日のようなイベントも
お二人がお元気である限り続く、永遠のカーテンコールなのでしょう。
また古谷さんにとっては、冒頭のお話通り
人生の窮地を何度も救ってくれた子どもへの
ささやかな恩返しなのかもしれませんね
例によって、思い入れタップリの長文になっちゃいました
最後まで読んで頂けた方、感謝致します。
残念ながらお話できなかった事も多かったですが、会場限定の内輪話ということで
なにとぞお許し下さいませ
そして台風の中、名古屋までお越し頂けた清水マリさん、古谷敏さん
素敵な時間を演出して下さった珠恵さん、イベントスタッフの皆さん
さらに、貴重なひと時を共有できた参加者の皆さん
そして何よりも、『ウルトラマンからの宿題』にご回答頂けたお仲間の皆さん。
この場をお借りして、深くお礼を申し上げます。
またいつか、こんな楽しい機会が訪れるといいですね。
さて。記事本文には書きませんでしたが
実は私、件の意見書を古谷さんにお渡しし
それをご本人が携えた写真を撮影している時
古谷さんから直々に、ちょっと耳打ちされました。
『ウルトラマンからの宿題・第二問』について
これは、前回のテーマとは若干趣を異にするものなので
現在、私の中でちょっと検討中です。
いずれ場を改めて、皆さんにおすがりするかもしれませんので
もしその時まで「ネヴュラ」をご覧頂いていたら
またおつき合い下さいね

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