魔界都市新宿⑤
・・・それほど広くない店内に所狭しと飾られているのは
常連のお客さんたちの、あでやかなお姿の写真。
風の強い曇り空、日曜日の昼下がりというのに
片手にグラスを揺らし、気持ちよく出来上がった男性客が
カウンターに立つママと、楽しそうに軽口を交わしていました・・・
さてさて。また間が開いてしまってごめんなさい![]()
この所、期せずしてお仲間とも、ブログ外でのやりとりが増えてしまって![]()
「ネヴュラ」同様、簡単なメールもつい長文になってしまう私は
そっちに全力を投入する事で、記事を書く時間を取られてしまうのでした。
というわけで今日は、前回・5月17日(日)の続きです。
この日は例の「部活」に続く上京の大きな理由であった
ある方々とお会いした日の、待ち合わせ前からの出来事。
今日も日曜ですから、すでに当日から二週間も過ぎた事になりますが![]()
まー備忘録も兼ねていますから、なにとぞお付き合い頂ければと。
東京在住の方々ならずとも、全国の読者の皆さんが
新宿という街の特定の地名に、ある種のイメージをお持ちと思います。
怪しい響きがありながらも、なぜかそこに生きる者たちの可笑しさ、物悲しさが
つきまとう街。
そう。「二丁目」です。
もはや全国区となった街の特徴は、あえてご説明する必要もないでしょう。
私のような者をはじめ、体の性と心の性のギャップに悩む人たちや
趣味や週末のストレス解消で女装、男装を楽しむ方々が跋扈する
一大歓楽街にして、独特の悲哀が溢れる地域です。
事実、この「魔界都市新宿」シリーズ一回目、今月18日の記事ラストで
私ごときをナンパしてくる輩さえ居る通り
ここは多種多様な嗜好を持つ人々が集まる街なのです。
実は私、今回の部活が新宿で行われる事を知った時、宿泊地を
新宿の中心に構えることに決めていました。
もちろん、移動の利便性も大きな理由ですが、それ以上に
まだ見ぬお仲間が生活を営む、二丁目の空気を感じてみたかったからでした。
ここでちょっと、難しいお話をしなければなりませんが。
実際には私は、二丁目で働かれる方々とはやや別の道を歩んでいます。
いわゆる「ニューハーフ」と呼ばれる彼女たちは、その美貌と社交性を
磨き上げ、ショービジネスの世界に生きる職業人だからです。
言わば「選ばれた人々」なんですよね。
彼女らほどの美貌を持ち合わせない私などは、ただ一つの武器である
ハッタリだけで、生き馬の目を抜く映像業界を木の葉のごとく流されるのみ![]()
「女性として生きる」覚悟は、プロである彼女たちの足元にも及びません。
一度はお会いし、日々のご苦労や人生観などをお聞きしてみたいものです。
ただ貧乏ゆえ、料金が高い彼女らのお店の敷居を跨ぐ度胸はとてもなく。
また彼女たちを目の当たりにすれば、そのプロ意識、上昇志向に圧倒され
自己嫌悪に陥る事も間違いなかったりして。
それほどまでに彼女たちの生き様は凄まじく、また清々しくもあるのです。
これ以上お話するとドロドロしちゃうので、今日はこれくらいにして![]()
まーそれでも、せっかく二丁目が目の前にあるのに、どこへも行かないのは
もったいない、という気持ちは、この日の朝からくすぶり続けていました。
そんな時、おバカで貧民の私などが思いつく事と言えば
地元名古屋でも通いつめた「女装スナック」を訪れる事くらい。
やはり新宿。料金もリーズナブルで、趣味で女装する一般客の
気軽な遊び場として便利な、その手の酒場も集中しているのです。
日本で最も女装者が多い街。新宿にはそんな印象さえあります![]()
ただ個人的には、この「女装者」という言い回しはあまりしっくりきません。
他に適切な呼び名が無いからそう呼ぶだけですが、私自身は別に
「女性を装っている」感覚が無いからです。
「心に合わせた装いをしてるだけ」で。女性の姿をする事は
自分らしく生きる証なんですね。うまく言えませんが![]()
「週末の変身タイム」として女装を楽しむ方々とは、気持ちの上で一線が
引かれていると思います。
現に今は、スカートにもお化粧にも「変身感覚」は無いですもんね。
むしろ「日常着替え感覚」100%。
鏡を見た時の「あ、太ったかな」とか「また吹き出物だよ」なんて悩みの方が
はるかに重大だったりするんですよ![]()
そういう意味でその手のスナックのお客さんは、言わば他山の石的印象。
女性の服を着てテンションが上がる方々には、不思議な感覚さえ覚えますが
そんな中、私のような生き方に目覚める方もいらっしゃるから侮れない![]()
女装スナックを訪れるのも、そんな未来のお仲間に出会う為かもしれません。
で、今回も出発前に、自宅でホテル近くのお店の目星はつけていたんですが
昨夜は部活の打ち上げ、今夜は人と会う予定がありと、お店の賑わう夜は
スケジュールがいっぱい。ある種、嬉しい悲鳴とも言えますが![]()
そんなわけで、昼間オープンのお店もラインナップに入れてありました。
さすが新宿ですね。飲食系のお店で昼間の需要があるというのも凄いです。
名古屋ではとても考えられません。うーむ羨ましい![]()
場所を確かめてみれば、何と滞在中のホテルから歩いて5分の近距離。
位置は正確には新宿三丁目ですが、まさに願ったり叶ったりで。
今日の待ち合わせ、夕方5時の約束を前に、さっそく訪れてみたのでした。
「どうも~」「いらっしゃ~い」
初めて訪れたのに、この手のお店は地元で馴染みがあるせいか
なぜか昔から知っているような感覚。
壁に飾られた常連さんの艶姿も、こうしたお店に定番の風景です。
カウンターだけの小さなお店ですが、どこから見ても女性としか思えない
妙齢のママと、常連さん風の男性客二人がまったりと言葉を交わし
和やかな空気が流れています。
さすがに日曜日の午後3時。私みたいな方はいらっしゃいませんね。
ちょっと残念ですが、ママさんの美しさがそれを補って余りあります![]()
「どちらからいらっしゃったの?」
「名古屋からです。ちょっとした集まりで」
「何の集まりで?」
「私、ヒーローオタクなものですから、そんな感じの集まりです。」
通称”謎のロシア人”のママさんに話の糸口を捕まれ、思わず白状する私。
まーオタクである事に後ろめたさは無いし。むしろ誇り高く行かないと![]()
胸の流星マークを指差す私に
「それ、ウルトラ警備隊か何かのマークだよね」
と、いきなりマニアックな声をかけてきたのは、隣で飲んでいた50代の男性。
来た来た
こんなお店にもお好きな方が![]()
「惜しい!もう一声」なんてやりとりを繰り返すうち
「アイアンキング」の話題を経て、彼が文学系のSFファンである事が判明。
まさかこういうお店で、ハインラインの名前が出るとは思いませんでした![]()
「スターログ」「アメージング・ストーリーズ」など、懐かしい雑誌の話題で
盛り上がっていると、もう一人の男性客も参戦。
「時々、有名アニメーションスタジオのプロデューサーも来るんだよ。」
やっぱりクリエイター関連の方々は、こういうお店もお好きなんでしょうか。
女装スナックでアニメの現場トーク。ある意味、ふさわしいとも言えますが![]()
でも、こういうお店に集まる方々は、仲間意識的感覚があるのでしょうか。
ふらりと入った一見客の私に、何の抵抗もなく相手下さる皆さんには
非常に親近感を覚えました。
まーいらっしゃった男性客はすでに結構お酒が回っていましたから
他人とのハードルが低くなっていたのかもしれませんが
それでも私は本当に楽しかったのです。
「名古屋から来たの?俺は名古屋は嫌いだな。
反りの合わない上司が名古屋出身でさー。」
なーんて言いながらも、それが私を和ませる為だって分かるんですよ。
「ゴメンゴメン。でも名古屋の街は好きだよ」と、フォローもすかさず入ったり![]()
「この近辺は女装スナックも多いんですか?」
「そうねえ。10軒以上はありますねえ。」
「でも、お昼から開いているお店は珍しいですね。」
「まあこれだけたくさんあるとね。お店ごとの特徴を出していかないと
なかなか生き残れないのよ。」
そんなママとのトークの中にも、この不況による痛手が深く感じられます。
「女装者って自分に合うお店を決めて、そのお店の常連になるじゃない。
だからなかなか、他のお店に流れないのよね。
だからその固定客が、お店の財産なのよ。」
うーんある意味、特殊な業種と思われていた女装飲食業も
一般のスナックと同じ競争を強いられているんですね。
やっぱり、楽なお仕事はありません。
「うちなんかはお昼からやってるでしょ。普通にランチメニューもあるし。
だから夜に女装するお客さんなんかも、昼間お仕事中に来ますよ。
今は女装できないけど、お店の雰囲気は味わいたいって。」
無線LANも完備。ワイシャツ姿でお店を訪れ、ランチを食べながら
パソコンでバリバリお仕事をこなす「変身前」のお客さんも居るとか。
もうこのお店は、昼夜問わず女装者の生活に溶け込んでいるんですね。
「パソコンならどこでやったって同じだものね。
会社もまさか、女装スナックで仕事してるとは思わないでしょうけど」
なんて笑うママの姿に、常連客への愛情を感じたりして![]()
でもそうは言っても、やっぱり内なる「男」が出ることもあるようで![]()
時々お客さんを集めて、旅行など大きなイベントも行うとの事ですが
そういう時の引率役は、本当に大変だそうです。
「結局参加者はみんな、ストレス解消に飲みたい人ばっかりじゃない。
もう出発からいきなり飲んでるのよ。
そんな百人以上の団体を、たった6人のスタッフで仕切るんだから。
酔いつぶれたお客を引っ張っていく時は
首根っこつかんで水ぶっかけてやるわよ。そん時は男だよね。
でもお客本人はベロベロに酔ってるから、そこまでやっても覚えてないのよ。
それだけが唯一の救い。」
うーむさすが。ママの妖艶な笑顔の裏には、そんな男気が潜んでいたのね![]()
なーんて話題が展開しながら、日曜日の昼下がりは過ぎていくのでした。
この時私は、お昼のランチとウーロン茶一杯だけでしたが
実に一時間半近くも、こんなトークを楽しんでいたのです。
ファミレスに入っていたら、これほど充実した時間は過ごせなかったでしょう。
元来、野次馬気質の私ですが、こんな予期せぬ情報を得られるから
お店巡りはやめられないんですね![]()
女性として生きる男性としての決意や生きざまを
そんな会話から感じる事もあります。
ママをはじめ、彼女ら歓楽街を懸命に生きる人々にとっては
そうした泣き笑いの一場面もすべてリアルな人生なんですね。
私もちょっと勇気付けられました。
「いざという時は、男を出してもいいんだな」なんて![]()
「お相手頂いて、ありがとうございました。」
ママやお客さんらに挨拶して、お店を出たのが待ち合わせ時間の30分前、
夕方4時半。
昼間からの風はますます強くなり、ビル風となって道行く人を襲います。
お相手との待ち合わせ場所、アルタへと向かう私の後で
なにやら、人々のどよめきが起りました。
見れば、歩道に立っていたお店の看板が、ビル風で吹き飛ばされた様子。
この時、田舎者の私は思いました。
「東京の「何が起るかわからない感」は、人の数で増幅されているんだな。」
例えば、名古屋で同じ事態になっても、私は振り向かなかったと思います。
たとえ街の中心地と言えど、どよめきが起るほど人が歩いていないからです。
だからそもそも、看板が飛ばされた事に気がつかない。
つまり道幅に対する、歩行者の密度が低いという事なんですね。
ですから東京と名古屋で同じ事が起っても、人の反応の大きさが違う。
ちょっとした事でも「感情の衝撃波の大きさが段違い」という事なんでしょう。
都会と地方都市の差というのは、こういう所にも表れるものなんですね。
そんな事に妙に納得しながら、風に乱れるヘアスタイルを直しつつたどり着いたアルタ前。時刻は、午後4時50分。
今回の上京のもう一つの大目的、感動の対面シーンです。
しかもお互い初対面ですから、お相手は私の顔を知りません。
私の方と言えば・・・ お相手のお一人は、テレビでは存じ上げております![]()
なんて盛り上がるシチュエーション。生き別れの兄妹の再会みたいな![]()
そして待つこと10分。待ち合わせの時間となりました。
手にした携帯が鳴ります。
「今、どちらに?」
「アルタ横、丸の内線・新宿駅の入口に立ってます。」
「分かりました。ええ~と・・・」
受話器越しに聞こえるお相手の声は、やがてリアルな響きとなって
ついに目の前に。
そこに現れた二つの人影は・・・
つづく![]()
| 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)






最近のコメント