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2008年12月22日 (月)

3秒ジョン・ウー

「どっちがいいと思いますか?」
編集マンの彼が放ったその言葉の意味を、私は理解できませんでした。
「えっ?どっちって?」
質問の意味を探ろうとする私の動揺を知ってか知らずか、彼は出来上がった番組のオープニングVTRを、ひたすらエンドレスで再生させるのでした・・・


先日のお話『6秒ドリーム』で触れた、わが担当番組のハイビジョンタイトル。
お話の顛末はこちらで。

http://spectre-nebura.cocolog-nifty.com/cultnight/2008/11/post-7692.html

今日はその編集日でした。
編集の為の実写素材、つまり撮影は、すでに先日無事終了。
タイトルロゴのCGも完成済み。
後は私のコンテに沿って、6秒という時間をいかにエモーションで埋め尽くすか。
それだけに集中できる至福の時なのでした。

若い感性とキャリアを持ち合わせた編集マンと私の二人。
ロケ素材やエフェクトをこねくりまわしてあーでもないこーでもないと試した末、ようやく形になったのが開始二時間後。
「たった6秒の為に、二時間もかけるの?」なんて思われるでしょうね。
でも二時間なら早い方です。一晩かけても出来ないものは出来ませんから、今日はまあまあいいペースと言えるでしょう。

私の担当番組は、ものすごく極端に言えば深夜バラエティーよりNHKスペシャルに近いノリなので(話百万分の一でお聞き下さい)内容も非常に「高級感」や「落ち着き」が求められます。ですからタイトルも、その内容にあったものでなくてはなりません。
「高級感」「落ち着き」なんて自分の中には全く無いのでcoldsweats01 そんなものを捏造しながらイメージングするのもしんどいんですが、とりあえず出来上がりはまあ、それなりになりました。

で、ちょっと安心した私の耳に入ってきたのが、冒頭の編集マンのセリフ。
「どっちがいいですか?」なんて、今出来上がったばっかりぢゃないの。
2パターン作る時間なんてなかったはずなのに。


出来上がったタイトルバックを、数回プレビューした後の事です。
おもむろに彼は、口を開きました。
「分かりましたか?今、2パターンのオープニングを、交互にプレビューしてみたんですけど。」
私にはもう何の事だか、さっぱりわからない。使っている映像は、両パターンとも全く同じなんです。カット割りの順番も同じ。
でも、二つを見比べてみると、何となく微妙に雰囲気が違う。
2パターン目は、ちょっと情緒的になっているんですね。
その秘密は編集タイミング?フィルターのかけ方?カットのリズム?
「えーっ?おんなじじゃん。どっか違うの?」
彼は勝ち誇ったように、タネあかしを始めました。
「実は。2パターン目は、微妙にスローモーションをかけてあるんですよ。」


そう言われてよくよく見れば、確かにほんの少し、2パターン目の方が動きがゆっくりしている。分かるかわからないか、微妙なさじ加減ですが。
今回のメインカットは、ある場所を移動する女性の主観映像だったんですが、ここは撮影時にもけっこう凝りまくって、実際の見た目よりもあでやかなイメージを狙いました。
光を十字形に加工するクロスフィルター、映像のエッジをボカすプロミストレンズに加え、ワイドレンズで画角を少し歪ませ、さらにドリー撮影(三脚を使わない撮影)で、ウキウキした女性の心象風景っぽくしたのです。
(書いていて思ったんですが、コレ、専門的すぎて全然わからないですよねcoldsweats01
なんとなくお察し下されば充分です。地に足が着いていない感覚を映像で表現したかったんですねhappy01
その映像が、ほんの少しのスロー処理でさらに心象風景っぽくなっていた事に、私は初めて気がつきました。
二つのパターンの微妙な感覚の違いは、それが原因だったのです。


「なるほどねー。」思わず私は腕組みをし、大きく頷きました。
何しろ私は、彼にそのカットのスロー処理を一切指示していません。
この処理は、彼の独断でやったことです。それがここまでの効果を上げるとは。
「やっぱり、スローパターンで行こうか。この方が演出意図に合ってるし。」
私がそう決断したのは、言うまでもありません。


これが、プロの編集マンなんですよhappy01
前述の通り、私は使うカットと並べ方を指示しただけで、後は「こんな感じのオープニングにしたい」と頼んだだけです。
その情報から彼は演出意図を読み取って、的確な画像処理をチョイスする。
ロケ素材を最大に活かす為のアイデアを、いつも持っているんですね。

で、私のオーダー通りの形に加え、もう一つの「隠し球」を作っておくという。
今回であれば「高級感」「落ち着き」を最大限に引き出す編集をしてくれたわけですね。しかもほんの少し、画像のスピードを落とす程度で。
極端なスローなら一目瞭然、誰にでも分かるんです。
それを隠し味程度にしてあるのが何ともhappy01

「あくまで監督の好みですが、この方が良くないですか?」なーんてさりげなく出してくるあたり、もう「おみそれしました」って感じで。


結局、この「謎の2パターンプレビュー作戦」は、番組担当のプロデューサー二人にも試しました。で、やっぱり二人の反応は私と同じ。
「同じに見えるんだけど、2パターン目の方が良い」という結果でした。
つまり、違いの理由も分からぬまま、編集マンが作ったエキストラバージョンが満場一致で採用となったわけです。
結果的に、彼は私の当初の目論見よりも良い物を作ってくれた事になります。


こういう事は、映像の世界ではままあります。
映像作品は総合芸術ですから、監督の意思だけが完全に貫かれるわけではありません。カメラマンをはじめとする現場スタッフ、出演者やアナウンサーなどのキャスト、今回のお話のような編集スタッフら数限りない人々の努力、アイデアによって成り立っているわけです。
で、出来上がった作品だけを見た研究者の中には、クレジット上の脚本家や監督の名前のみを見て「ああこの人らしいストーリー」とか「この監督ならこう撮るよね」なんて単純に断定する方もいらっしゃいますが、現場を知る者からすれば、そんな断定はとてもできません。
脚本、演出が作品の要である事は間違いありませんが、極端に言えば「監督一人の思いだけで作られた映像は皆無」じゃないかと思います。
映像は、個人がキャンパスに描く絵ではないからです。


どんなカット、画角、照明、演技、編集にだって、一つ一つのパートに携わるスタッフ、キャストの思いは必ず反映されてくるはずです。逆に、なければおかしい。
後々、監督や脚本家のインタビューなどで語られる作品の現場環境を聞いて、「あれは監督の意思じゃなかったのか」なんて新発見があるのは、言わば当たり前の事なのです。


良い監督というものは、才能あるスタッフを常に周りに配置しておくもの。
スタッフの才能をうまく引き出し、自作のクォリティーを上げる手腕に長けているのです。

過去のあらゆる巨匠・名匠の傍らには、これまた後世に語り継がれる名脚本家、撮影監督、デザイナーやコンポーザー、そして出演者が居ました。
そういう才能を束ねる手腕も、監督には必要なのです。
むしろ監督というものは、関係者の才能の発揮を邪魔しない交通整理役、とさえ言えるのかもしれません。
今回の出来事で、その事を久しぶりに思い出した次第です。

まー私の場合、そのあまりの無能ぶりを見かねて、周りが助けてくれるというのが実情ですがcrying


私は基本的に、スロー処理はあまり好きではありません。
なんて言うか、ストーリー上で人間の動きを引き伸ばしたり縮めたりする操作は、感情移入の流れを断ち切ってしまうように感じられるからです。
スローの名手として有名なジョン・ウー監督だって、のべつまくなしにその効果を使うわけじゃないですもんね。ガンファイトをさながら舞踏のように美しく見せたい時や、飛び立つ鳩の美しさ、生命の躍動に主人公の心理を重ね合わせたい場合に使う事が多い。観客の心象風景を具現化したい時、ここぞという時に使うから効果的なわけです。
ああいう効果は、間違えればただのケレン、スローの為のスローになってしまい、作品を底の浅いものに見せてしまいます。
才能の無い私はそれを恐れるあまり、スローを好まないのです。


でもやっぱり、食わず嫌いはいけませんね。先入観の無い編集マンにオープニングを任せたからこそ、今日のような成功例が生まれたのでしょう。
何となくちょっとだけ、ジョン・ウー氏の気持ちが分かったような気がしました。
スロー処理のカットはオープニング全尺の半分ですから、たった3秒ですが。


今回はかなり専門的なお話で、退屈されたでしょう。
本当に申し訳ありません。でも、ディレクターというのは毎日、こんな思いを持ちながらお仕事に向かっているんですよ。それだけお分かり頂ければ充分ですhappy01


さあ、映像の次はBGMの編集、通称・MAです。
音響効果の担当者も、候補曲を数パターン用意して待っているそうですが。
はたして、どんな曲が付くことやら。
こういうワクワク感があるからこそ、ディレクター稼業はやめられませんnote

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コメント

ご無沙汰です。
毎日拝見させてもらっていますが、なかなかコメントを書く時間と体力と気力が足りなくて…。
今回のこの記事、納得させられる部分が多々ありました。やっぱり映像も絵画や彫刻と同じように、作り込んでいくことでかたちを帯びてくるものであり、だからこそ現場において一番大切なものは、その時、その場において与えられるインスピレーションだと思います。この記事のどこの感想なのやらと書いて思いましたが、とりあえず書いちゃったんでごめんなさい!!

OKAZAKI様 いやー私の記事は日によってムラがありますから、コメントしづらいお気持ちもよ~く分かります。恐縮するのは私の方で(大汗)

おっしゃる通り作品作りというものは、確かに現場に於けるインスピレーションが大事ですね。
たとえ完成された台本であっても、いざロケ現場で俳優が口にすれば、違和感を覚える事だってあります。
その時、台本へのこだわりを捨てる事だって大事なんですね。
各々のスタッフが、作品をより良くする改変を恐れない勇気を持つこと、そしてそれを許す空気を監督が作ること。作品のクォリティーはその一点にかかっているのかもしれませんね。

クリエイターとして、私もOKAZAKIさんには同朋意識を感じています。
お互い創造の翼を広げ、未来の特撮界に貢献したいものですね。
これからもよろしくお願い致しますhappy01

同朋意識だなんて、そんな映像職から離れてしまった僕なんか・・・。自主でも映像を作らねばと思いつつもなかなか思うように進まず。早く部会の招集がかからないかと心待ちにしてます。そもそも映像織から離れたのも宇宙船映像倶楽部が原因だったり。

「各々のスタッフが、作品をより良くする改変を恐れない勇気を持つこと、そしてそれを許す空気を監督が作ること。」いくら監督が頑張ってもスタッフのモチベーションがなかったらいい作品なんて作れないよなーと思います。そういうのって実際画面に表れるもんですからねー。そんな面からも監督の器量は大事かと。

「現場に於けるインスピレーション」なしに、台本・コンテ通りに進めていくのは面白くも何ともないですしね。それに現時点での自分自身の手に収まってしまうような作品作りはしたくないですし。

っと、これ以上はまたお会いしたときにでも。こちらこそこれからもよろしくお願いします!

では、今日はさっさと仕事を切り上げて帰ります。

OKAZAKI様 ご返事ありがとうございますhappy01
いやー職種と志、モチベーションはまた別と思いますよhappy01

あの現場の空気を一度味わった者は、たとえ事情があって職を変えても、映像作品への思いは決して衰えない、創る楽しさを忘れないと思います。
そういう意味で、やっぱりOKAZAKIさんは私を含め、宇宙船映像倶楽部のお仲間です。共に頑張りましょうhappy01

>いくら監督が頑張ってもスタッフのモチベーションがなかったらいい作品なんて作れない
>そういうのって実際画面に表れる
ホントにそうですよねー。スタッフのモチベーションが上がることで、逆に監督の想像以上の絵が出来る事だって多いですし。
スタッフが乗ってるかどうかって、作品を見れば分かりますよね。
そんな「乗った作品」を私も心がけているんですがhappy01

結局作品って、一人のクリエイターだけでコントロールできるものじゃないんですよね。
その見極めがどこまで出来るか。そこがプロとファンの分かれ目のような気もします。
いずれお会いできた時、また思いを交わす楽しみが出来ました。
その時はよろしくお願い致します。

勝手な思いばかりを申し上げ、失礼しました。
他意はありませんので、ご立腹などなさらぬようcoldsweats01
今夜はクリスマスイブ。OKAZAKIさんも、楽しい聖夜をお過ごし下さいねhappy01


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