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2008年12月 9日 (火)

いもづる式トーク

「あっ、いい腕時計ですね。」
そんな言葉を思わず口にした、今朝10時の診察室。
ほぼ毎日、怪我の治療に通っている病院ですhospital


腕時計の主は、怪我を診て下さる担当医の先生。
「気がつきました?いいでしょこれ」なんて自慢顔です。
その腕時計は、別に有名ブランドとか宝石がちりばめられた高級品ではなかったんですが、文字盤のデザインに特徴がありました。
イエローのベースに、タコメーター風アナログ時計が配置された派手なもの。


「これ、フェラーリショップの限定版でしてね。リストバンドは、フェラーリの車が使っているタイヤのゴムで出来てるんですよ。」
フェラーリと聞いて私もビックリ。
この先生は「医は仁術」を地で行くような庶民派で、ダンガリーのシャツに穿き古しのGパン、ヨレヨレの白衣といういでたちだったのです。
そんな所に親近感も覚えていたのですが、まさか腕時計がフェラーリとはeye


「限定版ってことは、結構お高かったんじゃないですか?」
悪い癖ながら、失礼も省みず尋ねる私に、先生は笑って
「いや、そんなに高くはなかったんですけど、なにしろ代償が大きくてね。」
「えっ、なんですか代償って?」
「これを買うことを女房に相談したんだけど、女房が『あんただけそんな買い物するのはズルい。自分も何か欲しい』って言い出したんですよ。」
「あー、それで散財を。」
「そうそう。この時計の何倍もの出費ですわ。それがすごい痛手で」
高笑いとともに先生は、フェラーリの文字盤を愛おしそうに見つめました。


まー確かにお医者さんですからそれなりの収入もあるのでしょうが、こういう会話は微笑ましくていいですね。
やっぱり医者も人の子、趣味もあれば欲しい物もあるわけで。
とはいえ、その先生がフェラーリ実車のオーナーとは思えませんがhappy01


この病院は個人経営という事もあるのでしょうか、先生方もなかなか個性的です。特に、分かりやすいマニアが多い。
以前も、ズタズタのダメージデニムを穿いている先生がいらっしゃって。
診察時、「いいダメージバランスですねー」なんて尋ねたら、先生の目に急に光が宿っちゃって。
「これ、探したんですよー。501でこのタイプ、しかも体型にフィットするモデルってなかなかなくて。」
「えーっ501!それじゃ貴重なモデルじゃないですか。」
「いやいや。でも、そんなに高くなかったですけどね。」
横で看護師さんが笑いをこらえるのも気がつかず、先生のリーバイス談義はとどまる所を知らなかったのでしたhappy01


『白衣高血圧』という言葉をご存知でしょうか。
これは、医師に対する患者の緊張ぶりを表現したものです。
人間は体調が悪い時、自分が重病ではないかと勝手に心配してしまう。
本当は大した病気でなくても、病院に行くという事がすでに心配、緊張の要因になるわけです。
待合室で待たされ、診察室で医師と向かい合う事で、その緊張は最高潮に。
そこで医師が着ている病院の象徴「白衣」の威圧感から、測られる血圧も通常以上に上がってしまうという事なんですね。
まー「病は気から」の一つのバリエーションなんでしょうが、それだけに医師は、患者をなるべくリラックスさせ、緊張の緩和に努めるわけです。

その日は患者さんもさほど多くなかったので、リーバイス先生にも余裕があったのでしょう。ただ、患者をリラックスさせるドクタートークという理由を差し引いても、このはしゃぎ方はなかなか可愛い。
比較的ご高齢の患者さんが多い病院ですから、そういうオタクめいたトークの相手が少ないという理由もあるのでしょうね。
ましてや、患者から尋ねられるなんて思いもよらなかったのかもhappy01

以前からお話している通り、私はディレクターという職業柄、何に対しても興味が湧いたらすぐ尋ねてしまう癖があります。
ディレクターは、番組の内容について「自分がどこまでわかっているか」という事を常に自覚する必要があるからです。
その事柄について「理解した事」「理解していない事」「調べたけど答えが出ていない事」などを常に把握し、足りない部分は取材や勉強で作品の充実を目指すわけですね。
これを自覚するのとしないのでは、番組の説得力がまるで違ってくる。

理解した部分ばかりウェイトが高く、理解していない部分はどうしても突っ込みが甘くなりがちです。番組のバランスが悪くなるんですね。
ディレクターの理解の幅が、番組の内容の幅と言っても過言ではありません。


しかも。お仲間へのコメントにも書きましたが、人の出会いは一期一会。
どんな出会いも決しておろそかにはできません。
自分から繋がりを持とうとしなければ、それは街の雑踏ですれちがっているようなものだからです。

そして。どんな雑学であっても、ディレクターは聞きかじっておく必要があります。得た知識がいつ、どんな番組で役に立つか分からないからです。
日夜そういう訓練を積んだディレクターは、人に物を尋ねる事にためらいがありません。「今さらこんな事を知らないのは恥ずかしい」という感覚がなくなってしまうのです。
いくら年を重ねても、知らない事は知らないと認める潔さ、素直さが一つの資質なんですね。
ただその場合、質問に悪気があったり、相手を見下してやろうなどと邪心を持つのは良くありません。教えてくれた相手を敬う気持ちが、何より大切です。


実はこの境地に達してしまうと、普段の生活がものすごく楽になるんですよ。
成長の段階で身につけた「意味の無いプライド」という鎧を脱ぎ去った分だけ、心が軽くなると言えばいいんでしょうか。

素直に尋ねれば、相手も質問に悪気がない事を感じ取ってくれますから、素直に答えてくれます。
ましてや前述のように「趣味・こだわり」の部分について尋ねられれば、嬉々として話してくれるでしょう。
家族や友達、同僚じゃない相手なのに、これほどフレンドリーになれるというのは、ひとえにこの「素直な姿勢」ゆえなのかもしれません。
何しろ病院のドクター・ローテーションの関係で、フェラーリ先生・リーバイス先生ともに、私はこれまで二回ずつしか会っていないんですから。


ビジネスの局面に於いては、確かにかけ引きや言葉のバトルが存在します。
むしろそちらの方が多いでしょう。日々のお仕事で、私もそれは強く感じます。
ですから余計、こういう機会は貴重なのです。
純粋に趣味・趣向を語り合う機会がhappy01
また、この分野に関して言えば、単純な質問ほど相手の心に届きやすい。
質問者の生の驚きが、ストレートに相手に伝わるからです。

で、この生のやりとりというのは、思った以上の収穫をもたらします。
「いもづる式効果」とでも言うんでしょうか。
質問の答えが次の質問を呼ぶ効果です。


冒頭の例で行けば、

腕時計のデザインメーカー限定品価格購入経緯奥さんの人となり


という流れです。私はデザインについて尋ねたに過ぎませんが、その答えが次の質問を生み、会話がいもづるのように引き出されてゆく効果ですね。
別に私は腕時計のデザインから、先生が奥さんに時計より高い物を買わされた事まで聞き出そうとは思いませんでした。先生の奥さんは幸せですねhappy01


生のやりとりでは、こういう「話題のゆくえが予測できない」部分が最も魅力。
この触れ幅の大きさがいいんですよ。

ひょっとしてもっと話が弾めば、最近のモータースポーツの動向や奥さんのご趣味なんてところまでお話が転がっていたかもしれません。

しかもその流れは、決していつも同じにはならない。そのアドリブ性がいいんですよ。この「アドリブ性から得られた情報」が脳内に蓄積されていくことによって、アイデアの引き出しが増える訳ですね。

ただ決して、得た知識はお仕事だけに活かされるわけではありません。
昔から「ディレクターは感動の商売」と言われています。
様々な出会いの中で、人の生き様や専門分野ゆえのノウハウに覚える感動の気持ちが、番組を作るモチベーションに繋がるわけですね。
ですからまず、その物事に人間として感動すること。そこが重要なんです。
知識はその後についてくるというだけで。
そういう意味では、非常に魅力的な職業と言えるかもしれません。


私など遠く及びませんが、優れたディレクターやインタビュアーは、この「いもづる式効果」を生み出すお話の転がし方を実に心得ています。
最初に予定した情報は一つでも、それが入口となって次々と情報が引き出されてくる。インタビューのベテランは、そのいもづるの分岐点を自在に操って、トークに広がりを持たせるわけです。
ただいずれも最も必要な事は、何よりも「素直に質問する事」でしょうね。
ここをクリアできなければ、相手は永遠に心を開いてはくれません。

人と人との繋がりが希薄と言われる現在、こういうある種ファジーな会話こそが、何より必要な気もするのですが。


こういう罪のないやりとりは、本当に楽しいものです。
確かに、ビジネスシーンで展開される身を切るような言葉のやりとりも充足感があって好きですが、やはり素直さに素直さで応じてくれる会話の方が人間らしい気がします。
命のやりとりを見つめる現場、救急病院であるからこそ、そういう「人間らしい繋がり」が大切にされているのかもしれませんね。
医師と患者はビジネスの関係ではないと、ひたすら信じたい私ですがhospital


実は今日、診察室でもう一つ面白い話題があったんですが、これは相手の承諾が必要。今後、承諾を頂けたら、いずれお話しようと思います。
いつにも増して、地味~で固いお話でごめんなさいねsweat01
最近、オタクネタがちょっと減ってますが、決してオタク撤退ではありませんのでご心配なくhappy01


毎日、こんな事ばかり考えている私も、おかしな存在かも。
筆者の頭の悪さがいもづる式に見えてくるのも、「ネヴュラ」の功罪ですcoldsweats01

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コメント

オタクィーンさま、こんばんは。今回もおもしろいお話拝見いたしました。私は口下手なほうなので、人と会った後になって、ああ言っておけばよかった、もうちょっと気の利いた台詞を言っておけばよかったと後悔の連続です。人との出会いは一期一会、その時の会話にその人の懐の深さというか、人生の味のようなものが出せたらいいなぁと思ってます。まぁそのためには自分自身経験をつんだり、人の心の機微をわかるようにしなければと思います。日曜のお昼にNHKのど自慢がやってますが、ときたまお年寄りなど耳の不自由なおばあちゃんが歌った後のインタビューで、アナウンサーの方が聞いても返事しないときがありますが、私は気が小さいのでどうしようとテレビの前でどきどきしてしまいます。でもアナウンサーの方は慣れたもので、客席の家族に振って家族からはおばあちゃんガンバレーとの声援、そして会場は大爆笑と見ていてとてもほのぼのしました。司会の方に私はこれがプロの仕事なんだなぁと感心しました。

のん様 返事が遅れ申し訳ありませんでしたcoldsweats01
いやー私も口下手な方で、これまで随分、貴重な出会いをふいにしてきたような気がします。
そのもったいなさに気づいたのは、今のお仕事を始めてからでした。
自分から動かなければ、チャンスは待ってくれないんですよね。
まさに「一期一会」の教えは正しいと思います。
今も毎日「ああ言えばよかった」の嵐、あちこちぶつかって怪我ばかりしていますが、後悔だけはしたくないんです。
「おひとり様、人生一回限り」ですからhappy01

NHKののど自慢、私も時々どきどきしますよ。なにしろ公開放送ですから、ただでさえ素人さんはステージの上で緊張しちゃうし。そりゃ固まっちゃいますよね。
ステージで司会などを手掛けるタレントさんと時々お仕事をするんですが、彼らはやはり勉強していますね。
現場の空気を読み、お客さんをリラックスさせる手際が実に鮮やか。
言葉の選び方が見事なんですね。
プロとはそういうものですが、それだって一朝一夕には達せられない技です。
実はそんな技ほど、普通の人は気づかないものなんですが。
でもその根底には、いつも「人を敬う心」が息づいていると思います。
辛苦を味わった彼らには、それが一番分かっているのでしょうねhappy01

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