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2008年10月 6日 (月)

海底軍艦の法則

「ちょっとお話がありまして。」
台本を配っていた私に、突然かけられた局担当者からの声。

あー、ついに私もお払い箱か。思えば長いようで短い担当番組だったなー。
数々の苦労が走馬灯のように・・・
そこであれっと首をヒネった私。
いや、待てよ。もう10月に入ってるし。番組改編の時期は過ぎてるじゃん。
という事は、担当番組が消えるわけじゃないのね。

「実はですね。」
打ち合わせ室に腰を下ろした担当者は、おもむろにこう切り出しました。
「番組のハイビジョン化が決まりまして。」


そうなんです。これまで私の担当番組は、時代遅れの通常制作。
画面のタテヨコ比も4:3の、フツーの作り方だったんです。
それが局の要請で、いよいよ高画質、画面比率16:9のハイビジョンに。
ちょっと専門的な話題でごめんなさい。
今日はそんな、業界がらみのお話です。

3年後のアナログ放送廃止に備え、デジタル対応のテレビを購入されている方は読者の皆さんの中にも多いと思います。
いよいよテレビも高画質時代。より解像度の高いハイビジョンカメラによる番組制作は、局にとっても急務になっているわけですね。
現に普通のテレビでも、画面の上下に黒味のあるハイビジョンサイズの番組は増えています。
「クウガ」の頃は新鮮だったハイビジョン撮影も、今は主流を占めつつありますね。
我が番組も、ついにその仲間入りというわけです。
苦節ウン年、うーん長かったhappy01
自分の子供が出世したみたいで、ちょっと嬉しいです。
当面はアナログハイビジョンとはいえcoldsweats01


何年か前、番組担当のカメラマンとロケ中に話したことがあります。
「ハイビジョンになると、カメラワークはどう変わるの?」
彼は答えました。
「画面の比率が変わるから、これまでのセンスじゃちょっと付いていけないかもしれないなー。4:3が16:9に変わるわけでしょ。
今までどおりに撮ってたら、単純に左右に空きが出ちゃうわけじゃない。
感覚が変わってきちゃうよね。」


確かにその通り。
カメラマンは(当然、ディレクターもですが)演出意図に沿ったカメラワークを心がけているので、画面の比率という物をいつも念頭に置きます。
例えば向かい合って会話する二人の人物を撮影する場合、画面比率が4:3だとどうしても片方の人物しか入らない場合が多いですが、16:9なら両者を一画面に収めることが出来る。
単純な例ですが、いわば映像の力学みたいなものです。
映画のスタンダード画面とビスタサイズの違いですね。
4:3に慣れているカメラマンは、この「16:9の画面の切り取り方」に慣れていない場合があります。もちろん私だって4:3人生でしたので(体型じゃないですよcoldsweats01)慣れるまでには若干の期間が必要でしょう。


通常カメラとハイビジョンカメラの差による影響は、色々な所に出てきます。
前述の「向かい合う二人」の場合、通常の4:3なら一人ずつのカットバックが必要なところですが、16:9のハイビジョンならその必要が無くなります。
つまり、カット割りが変わってくる。
いわゆる「東映仁侠映画風対面会話」が可能になるわけですね。

他にもあります。通常カメラに比べ、ハイビジョンは解像度が格段に上がる為、小さな物をアップ撮影する必要性が減ってくる。
ロングショットでも、画面の中の情報がより確実に伝えられるからです。

その為、ロングからアップへ、またズームインなどのカットワークが不要になる場合も多くなるでしょう。


ここで、女性リポーターが見せる反応は二つ。
「あら。ハイビジョンになると細かい部分までしっかり映るから、お化粧はちゃんとやっておかないと。」これは若いリポーター。
「えーっ!じゃあ絶対にアップなんて撮らないでね。私は遠くの方で、豆粒みたいに映ってればいいから」と焦る年代は・・・もうお分かりですね。
ちなみに私は後者に共感します。一緒に泣きましょうcoldsweats01

これらは非常に単純な例ばかりですが、これだけ考えても、画面比率と解像度がいかに作品の雰囲気に影響するかがお分かりと思います。
一言で言ってしまえば、「映画風カットワークに近くなる」という事です。

独特のダイナミズムも可能だし、またどっしりとした引き絵で引っ張れる場合もあります。
カメラをあちこち振り回すと言うよりは、一画面の中で芝居をさせるような演出が増えてくるでしょう。
ですから映画好きな私などは嬉しい限り。
「おー。これでゴジラ、キングシーサー対メカゴジラの『頭180度回転攻撃カット』も真似できちゃうぞhappy01」なんて一人悦に入っていたのでした。
(実際はシネスコほど横広じゃないので、あのカットの再現は不可能なんですが。まー気持ちの問題ですcoldsweats01


我が番組にまでハイビジョンの波が押し寄せる訳ですから、これからの特撮番組は(やっぱりこっちへ行くかsweat01)これまでの発想を転換する必要がありますね。
例えば、ウルトラマンの変身カット。
あの赤バックで手前に迫るマン変身の緊張感は、4:3の画面比率だからこそ生まれるものなんですね。おそらくあれが16:9だったら、左右に空きが出て赤バックの印象が強くなっちゃう。
マンがバックに負けちゃって、小さく見えるんですね。
これを懸念して最近の新作などでは、手前の拳の大きさやポーズそのものを微調整、違和感が無いよう作られています。

ウルトラセブンの変身カット。
あれなんかセブンのバストショットだけで動きが無いですから、16:9だったら左右の空きが余計目立っちゃう。
画面比率という物はそれほどまでにデリケートなものなんです。


縦の動きに一考が必要な反面、ハイビジョンサイズには横の動きを強調できる利点がありますね。
スペシウム光線のストロークやライダーキックのダイナミズムは、おそらく4:3より16:9の方が強調できるでしょう。
要は「時間と空間の認識度」みたいなものが、格段に上がるんですね。
カットを割らない利点が、ここで活かされるわけです。

「スペシウム光線が怪獣に届くまでに、これだけの秒数がかかるんだ」
「ライダーキックの滞空時間はこんなに長いんだ」みたいな、エモーションを途切れさせない演出が出来るわけです。

「スペシウム発射」でカットを割って「当たる怪獣」を見せるより、一連の流れを見せる方が「空間」を感じやすいですもんね。


この理屈で行くと、ハイビジョン撮影・16:9の画面比率に適しているのは「横長のキャラクター」という事になりますね。
何のことはない「海底軍艦の法則」なんですよ。

東宝映画「海底軍艦」(1963年 本多猪四郎監督)の主役”怪獣”「轟天号」は、横広のシネスコ画面に於ける効果を計算してデザインされたという逸話を、どこかで読んだ記憶があります。
その時私は「なるほど。キャラクターというのは、画面の比率まで考えてデザインされるものなのか」とひどく感激しました。
あくまで記憶なので、確実か?なんて聞かれると困っちゃうのですが、あの轟天号の勇姿を見るにつけ、その説も頷けるなあなんて単純な私は思っちゃうのでした。

(ここで新世紀合金・轟天号の写真なんてお見せできるとカッコイイんですが、残念ながら発売前なので断念。今月末には届く予定ですのでお待ち下さいsweat01

さてそうなると。これからのハイビジョン時代、16:9の画面比率や細部まで映し出すカメラの精度に見合うキャラクターは・・・
海底軍艦の法則に照らし合わせれば、一つのシルエットが浮かんできませんか?そう。ご名答。
日本特撮史に燦然と光り輝く「青い海に映える影」マイティジャックですhappy01

Photo実はこの企画、今の時代だからこそ最高の魅力を引き出せるような気がするんですよ。
この横長・ハイディテールのMJ号が波を切って発進する様を、超高解像度で捉えるハイビジョンカメラなんて、考えただけでもウットリしますねーhappy01
対するQの戦艦、円谷一流のミニチュアワークも、ハイビジョンの高画質ならより引き立つような気も。うーん見たい。いや、観たい。


「オタクイーン、いつもリメイクは嫌いって言ってるじゃない。」
そんな声も聞こえてきそうですね。そうです。私はリメイク否定派ですpunch
それなら、マイティジャックの志を受け継ぐ、新しい企画を目指さなければ。
うーんでも、あの成田デザインを凌駕する万能戦艦を考えるのは至難の技ですね。これはもう完成されちゃってますからねー。
このオリジナリティー、一部の隙も無い流れるようなスタイリングの前には、もうひれ伏すしかありません。

まだまだ私は、先人の偉業には叶いませんねー。精進しなければ。


でも、時代の進化と共に現れたハイビジョンというフォーマットは、私たちクリエイターにとって大きな武器です。
いつかこの横長、高解像度の利点を活かした企画をモノにすべく頑張ろうと思います。実際、テレビの現場でも、まだこのフォーマットは模索中なんですよ。


うーむまた、いつものオタク話になってしまいました。
しょーがないですよね。同じ人間がお話してるんですからcoldsweats01
まーそんなこんなで、さしあたって担当番組のハイビジョン演出を勉強中。
どーしよう。とりあえず「惑星大戦争」を観て・・・(轟天違いcoldsweats01

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コメント

ちょうど安藤監督のインタビューのブラッシュアップを済ませて
その後にUPする『地上破壊工作』で、実相寺監督の映像論を
とことん書いていたところなんですが。
安藤監督とも映像論の話になって
やっぱり映像制作っていうのは、やれモンタージュだやれ画面構成だ
やれイマジナリーラインだっていう理論を抜きにしては絶対にやれないわけです。
だってそういうのは、一見小難しい理屈だけど実は
「大きな音がしたら驚く」みたいな、単純な人の生理を
どう映像に結び付けていくかの因果論なわけですから。

観る側はそんな理屈や理論は知らなくていいわけですよね。
むしろそれに気づかせちゃいけないわけで。
安藤監督が仰ってました「本当の映像派っていうのはね
観ている人にそれを気づかせない、意識させない映像を作るプロのことです」

今回オタクィーンさんが仰った、画面対比や画面構成の力学も
きっと観る側の人にはぴんとこないのかもしれません。
むしろ、ぴんとこなくて良いんだと思います。
でも、映像の送り手は日夜そういうレベルで映像と格闘しているのだと
自分もこれからもそれを、伝えていきたいですね。

市川大河様 お忙しい所をわざわざコメント頂き、ありがとうございますhappy01
安藤監督もおっしゃる通り、確かに映像制作には数々の基本があり、それを踏まえなければストーリーさえ理解できなくなってしまいますね。業界入りし、それを思い知るまでは、私もそんな事にはまったく気がつきませんでした。
そういう意味では、安藤監督の「観ている人にそれを気づかせない、意識させない映像を作るプロ」というお言葉は理解できます。

ただ経験上感じるのは、映像派には二種類あるんじゃないかという事ですね。
「映像テクを気づかせないプロ」と「映像そのものが主張するプロ」でしょうか。
例えば、私は一時期ヒッチコック監督の諸作に大変心酔していたんですが、彼の作品は素人でも「カットごとの映像理論を語りたくなる」んですね。
カットがセリフを代弁する比率が高い為でしょう。
ト書きだけで成り立っているような、まさに「映画そのもの」の躍動感を感じてしまうんですよ。ですからどうしても、映像理論を紐解きたくなるmovie
ヒッチ研究家はよく「ヒッチの作品はストーリーを文字化しにくい。文字では魅力が半減してしまう」と嘆くんですが、それはまさにヒッチの作品が純粋映像に近い存在であることの証明でもあります。
どちらかと言えば、私はそういう映像のあり方に魅力を感じて業界入りしたものですから、どうしても技術論、映像解析に傾倒してしまうんでしょうねhappy01

とはいえ、それも一つのアプローチに過ぎません。
作品のどこに興味を持つかは受け手に委ねられているわけですから、別に主張する気も無いですし。
でもおっしゃる通り「映像の送り手は日夜そういうレベルで映像と格闘している」という事は、受け手もどこかで感じてもらいたいと思います。
送り手の思いは、カメラのすぐ後ろにあるのですからhappy01

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