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2008年10月11日 (土)

揺れるポニーテール

「いつも思うけど、今日はいちだんと」
おとといの木曜日。
ロケ現場に向かう道中で、私の後を歩くカメラマンがつぶやきました。
「似たような二人が歩いてるなー。」


ロケはスポーツと同じようなもの。かなり体力も使うので、この時期、私はいつもTシャツにGパンと決めています。髪も肩より長いので後でまとめ、ポニーテールに。
実は、そんな私のいでたちにそっくりなスタッフが、もう一人居たのです。
カメラアシスタントとして働く、一人の女性。

彼女は背格好も私とほぼ同じ。女性としてはかなり身長があります。
髪の色も長さもほぼ私と同じなので、当然、ポニーテールに。
で、おとといはたまたま、着ているものの色が私とカブったんですね。
二人とも黒のトップスに、濃い目のデニム。
もっとも彼女のトップスは、少し背中の空いたカットソーでしたが。
ですからカメラマンには、私たちの後姿が似て見えたという訳です。

問題はそのルックス。
業界関係者には大変失礼なんですがcoldsweats01 彼女はカメラの後ろで走り回るにはもったい無いほどの超美人なのです。

ちょうど、「ブレードランナー」の頃のショーン・ヤングに「ミニミニ大作戦」の時のシャーリーズ・セロンを足して二で割り、日本人にしたようなお顔立ち。
しかもスラリと伸びた長身で、スタイルも抜群。
まるでモデルかタレント、さては女優もかくやの美しさなのでした。

さらにファッションセンスも抜群。AneCamの愛読者。
たぶん、彼女が局の女子アナと並んで歩いたら、人々の目は確実に彼女の方に注がれるでしょう。悔しそうな女子アナの顔が目に浮かびますsmile


まー後姿とはいえ、彼女に似ていると言われた私は飛び上がるほど嬉しかったのですがhappy01 それにしてもこんな美女が、なにゆえカメラアシスタントなどに?
言っちゃ悪いですが、今は死語となった3Kの極地のようなお仕事ですし。
本当に、今、カメラの前に立ち、天気予報なんか喋り出しても、まったく違和感がないほどのルックスなのです。いや、むしろ彼女なら人気が出るでしょう。

彼女と一緒にロケに出るのは、今回が三回目。
仕事ぶりはまあ、それなりにそつなくこなす要領のよさで、判断力、良識なども身についています。聞けば年齢は30歳との事。

信じられない!どう見ても25歳前後のお肌!
やっぱり美しさは年齢を超えるのねとしょんぼりしているヒマもなく、ロケは粛々と進んでいくのでありましたmovie


これも業界の皆さんには失礼なんですが、叩き上げで専門知識を学ぶカメラマンなど技術スタッフって、えてして個性的な方々が多いのです。
女性スタッフにしたってなかなか勇ましい体型、こちらが一言言えば返事が十倍になって帰ってくるような押しの強い方々ばっかりで。
そんな彼女たちの姿を頼もしく思い、また恐れもするのですがcoldsweats01

ところが件のアシスタントの彼女は、そんなアクの強さの変わりに「知性」を感じさせるところがありました。
カメラマンの指示をテキパキをこなす姿には、あの種のすがすがしささえ覚えたものです。私にはあそこまで出来ないなーと。

ですから、普通ならアシスタントに容赦しないカメラマン達スタッフも、あまり彼女を怒鳴らない。そのやさしさはちょっと異常なほどでした。
フン、男なんて美人には優しいのよね、なんてやっかみ気味に思ってもいましたが、彼女の健気な働きぶりを見ていると何故か許せてしまうのでした。
なるほど。彼女の動きには、怒られるような隙がない。
賢い仕事ぶりなんですね。


それもそのはず。実は彼女には、ある事情がありました。
実は彼女、数年前までは、局の報道部の最前線で働く記者だったのです。

事件や事故などのニュースネタを日夜追いかけ、体一つで精力的に取材をこなす女性記者。
局の報道部ですから、ニュースにも出演経験があったでしょう。
「かなり重いものでも抱えて走る自信がありますよ。」
笑う彼女の美しい顔からは、そんな姿はまったく想像できなかったのですが。


ところが、そんな彼女に一大転機が訪れます。
あまりの激務が祟ったのか体調を崩し、一ヶ月ほど入院してしまったのです。
少数精鋭、日々が戦いの報道業界は、彼女が抜けた穴を放っておく余裕などありませんでした。
一ヵ月後。彼女が戻った報道部に、彼女のデスクは無かったのです。


その後、今後の体調不良を心配された彼女が、報道部へ復帰する事は叶いませんでした。とはいえ、退職を示唆されるわけでもなく。
結局は、スケジュール管理などデスクワークをしながら、人手が足りない時にアシスタントとして現場へ赴く。
そんな、中途半端な勤務を余儀なくされていたのです。
社会の今を切り取るべく現場で走り回りたいのに、パソコンの前で書類などを管理する日々。彼女の落胆と悔しさは、いかばかりのものだったでしょう。
数日に一回訪れる撮影現場だけが、彼女の唯一の生き甲斐なのです。


以前、彼女が持ち歩く私の番組台本を見たことがあります。
ちょっと驚いたのは、遠目から見たその台本が真っ赤に染まっていた事。
赤の理由は、台本に彼女が書き込んだ注意事項や準備機材のメモでした。
隙間がないほど赤ペンでビッシリ埋められた台本。

おそらく、報道時代のメモの癖が残っているのでしょう。
そんな所からも、現場に賭ける彼女の意欲が伝わってきます。


しかし、現場としては彼女の扱いに困っていたようです。
事情を知るカメラマンが、ある日私にちょっと漏らした言葉がありました。

「彼女をどう育てたらいいかわからない。」
彼女は今も報道部へ戻り、バリバリ働く夢を捨ててはいないようだ。

でも今、カメラスタッフに出来る事は、彼女に「お手伝い」してもらう事だけ。
カメラマンとして育てるならしごく事も怒鳴る事もできるけど、会社としてはまた体調を崩されたら困るから腫れ物扱い。しかも本人はカメラマン志望じゃないから、我々もお手伝い扱いにせざるをえない。
彼女本人にとっても、こんな中途半端な扱いは良くないんじゃないか。
結局、体のいいたらい回しになっちゃうし。
そうか。彼らが彼女に厳しい指導をしない理由は、そこにあったのか。


その時、私は思いました。現実は残酷なものだなあと。
仕事を続ける上で最も重要なものは健康。
あれほどの美貌を誇っていても、健康に問題があれば望む仕事に就けないものなのか。一度は経験し、その喜びも味わった仕事だけに、途中のリタイヤは余計辛かったことでしょう。


午前中のロケは無事終了、サラリーマンでごった返す局近くのパスタ屋さんで、私たちも昼食時間を迎えました。
私の隣に座った彼女は、そのプロポーションに不釣合いな味噌かつ、あんかけスパゲティー大盛りのサービスランチ。
まだ食べるかというほどモリモリかき込みます。
食後のオレンジジュースを飲み干し、ほっとため息をついた彼女は、さらにコップの水をあっという間に空にしました。
「よく飲むねえ」
感心する私に、彼女はこんな事を話してくれました。


「私が最初に体を壊したのは、高校の頃なんです。」
その長身を生かし、高校時代、バスケットボール部で頑張っていた彼女は、精神論をモットーとする鬼コーチに日夜しごかれていたそうです。
それは熾烈を極めるもので、ある日など、朝から夕方まで一滴の水分補給も許されない練習があったとの事。
「科学的根拠もなく、ただ根性を鍛えるという理由だったようですが。
でも私、その練習で体を壊しました。それからずっと今まで、体の水分が失われる事に恐怖心があるんです。だからつい水分を採ってしまう。」


記者時代の体調不良は別の原因かもしれませんが、彼女にとって「水分を失う」というトラウマは、それほど根強いものだったんですね。
女優並みの美貌と記者の聡明さ、ガッツと人当たりの良さまで合わせ持ち、それ以上何を望むの?と思うほどの彼女の唯一の望みが
ほんの一杯の水だったとは。


仕事を生き甲斐にする女性にとって、30歳は一つの転機です。
それまで積み上げてきたスキルを活かし、さらなるキャリアを目指すのか。
結婚という道を選ぶのか。

適齢期という概念は無くなったと言われていても、体力面・精神面ともに、女性にとってはこの時期が人生の分岐点。
体調を崩さず、やり甲斐ある記者を続けていれば、彼女は迷わずキャリアの道を選んだでしょう。
でも常に健康を心配しながら、限られた範囲で仕事を続けなければならない彼女にとって、今のポジションははたして魅力的なのでしょうか。
傍観者に過ぎない私ですが、それは決して他人事ではありません。
フリーの世界は体だけが資本。ましてや私のように何のとりえもない人間にとって、体調を崩す事はそのまま職を失う事なのです。
私が今の職を失った時。他の仕事で納得できるのかどうか。
生活の糧として職は必要ですが、ことやり甲斐に関しては・・・



紆余曲折ありながらも、何とかスケジュールギリギリでロケも終わりました。
彼女を含め、スタッフの皆さんにお疲れさんを告げ、帰路についた私。
ミニバイクの車上、高速で流れる街並を眺める私の脳裏には、以前、ロケで彼女が見せた表情が浮かんでいました。
局の近くのロケ現場に、たまたま彼女の以前の同僚、報道部の記者たちが通りかかった事があったのです。


昔は同じ職場でありながら、今はカメラアシスタントとして働く彼女と、挨拶を交わす記者たち。その強烈なコントラスト。
忙しく局へ消えていく彼らの後姿を、彼女は手を止めて見つめていました。
そんな彼女を急かす事もできず、ただ待つしかない先輩カメラマン。


憧れと、かすかな希望の輝きの中にほんの一滴、僅かな諦めが滲む彼女の目は、この上もなく美しく、また悲しく見えました。

でも、振り返った彼女の目は、現場に全力投球する果敢な光を湛えて。
「でも自分は今、ここで頑張るしかないかもしれない」
揺れるポニーテールが、彼女の決意を表しているようでした。

私のポニーテールは、彼女のように元気に揺れているでしょうか。
そんな事を思ってしまう、秋の帰り道。
教えられる事は、逆境の中にこそ多いんですね。

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コメント

MIYUKIさま、こんにちは。
報道記者さん達の仕事はきっと
相当に過酷な毎日なのですね。

志のたかい努力家の彼女にまたチャンスが
訪れて欲しい。心からそう思いました。

MIYUKIさんの業界のお仕事もいろいろな
ご苦労が多いのではないでしょうか。
MIYUKIさんのご活躍とご健康いつも願ってます。

hikari様 彼女は本当にしっかりした人で
私もほとほと感心しています。
やはり報道の最前線でバリバリやっていただけあって
美しい外見に似合わず体育会系でt-shirt

きっと彼女のことですから
どこかで自分の生き甲斐を見つける事でしょう。
報道部への復帰も可能性ゼロではありませんし。

人間、どんなポジションに居ても志が大事という事を
彼女から改めて教えられた気がします。
最近心なしか、後輩から学ぶ事が多くなりましたcoldsweats01

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