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2008年9月24日 (水)

プロはマス目で時を読む

一つ、皆さんにご質問を。
この「ネヴュラ」の記事を、いつも皆さんは何分くらいで読み終えますか?
言い換えれば、文字を目で追うスピードを意識されているでしょうか?

まー皆さん、そんな事はほとんど頭にないと思います。
ブログの場合、冒頭の一行を目で追って、興味ある話題なら読み進むといったようなスタイルが多いので、よけいスピードが計りにくいのでしょう。
しかもそれには個人差があり、文体や漢字の量などによっても変わってきますね。
私にしたって、お仲間のブログを読むスピードなんて計った事ありませんしhappy01

なぜ急に、そんなお話をしたかと言いますと。
ちょうど先ほど、ネットサーフィンをしていた時に届いた一通のEメールが、発想の基だったんです。
と言うのは。


数日に一度、夜になると届く一通のメールは、数年前から私と組んでお仕事をしているディレクターからのものです。
内容は、明日スタジオ収録を行う番組の台本とQシート。

台本はなんとなくお分かりでしょうが、Qシートというのは番組の進行が一目で分かる一覧表のようなもので、例えばここでアナウンサーが喋る。次にVTRスタート。スタジオへ降りたら出演者にスーパー、みたいな構成要素が、番組のタイムスケジュールに沿って書かれています。まー今回のお話にはさほど関係ありませんがcoldsweats01

いつも感心するのは、台本の方で。
「ネヴュラ」読者の皆さんは、台本と言うとおそらく映画などドラマのそれを思い浮かべられると思いますが、今回のお仕事の場合、スタジオとVTRのみのニュース番組的な内容なんです。
ですから台本も、アナウンサーの喋りを中心としたニュース原稿のようなもの。しかもなかなか、緊張する現場で。


この番組の枠は12分間。生放送ではなく収録番組なんですが、局との契約の都合で、途中一度も止める事ができないんです。
アナウンサーが読み間違えちゃったから「収録一回止めまーす」なんてバラエティーノリは許されない。取材VTRの入り、スーパー出しのタイミングまで、ミスが一切出来ないわけですね。
生放送なんかでよく、関係ないスーパーやミスコメントを見ることがありますが、この番組でそれをやっちゃうと、たとえ11分50秒まで上手く行っていたとしても、最初からやり直しになっちゃうという厳しさなんですよ。
私の役目はスタジオの仕切り。カメラの横でアナウンサーにQ出しをする「フロアディレクター」です。番組の構造を完全に理解していないとミスる。
私のミスで、最初からやり直しになっちゃう可能性だってある訳です。


で、なぜ台本に感心するかと言いますと。
これは、私よりはるかにキャリアの長いベテランディレクターの作なんですが、彼の台本は「アナウンサーの読む速度を完全に把握し、ピッタリと12分に収まるように」書かれているんです。
前述のお話に関係しますが、この番組は、局の担当部署に台本を事前確認する必要があります。OKが出た台本は一言一句直すことが出来ない。その台本のみに許可が出ているからです。
アナウンサーは言葉のアヤさえ挟めません。

ですから、台本を完璧に仕上げておかなければ、本番に臨めないわけです。
しかもアドリブが許されないですから、台本の段階で「12分」にしておく必要があります。
これって、結構な神ワザなんですよ。


冒頭にお話した通り、文章を読むスピードは人それぞれ。それはアナウンサーだって同じです。しかも同じアナでも、体調などが微妙に影響してくる。
一度として、同じ読みスピードは無いといっていいでしょう。

「いやいや。規定文字数で文章を書くなんて事、みんなやってるじゃないの。私だって毎日やってるし」と思われるかもしれません。
でも、「文字」と「読み」は似て非なるものなんですよ。
実際、試されるとお分かりになると思いますが、同じ文字数でも、読むスピード次第で所要時間は微妙に変化する筈です。「文字」は数が変わりませんが、「読み」は毎回変わるもの。読みを完成形とする番組は、生き物のようなその要素をコントロールしなければならないんです。


「えーっ、オタクイーン、それじゃー生放送のニュースなんかは?あれって原稿がありながら、ピッタリ時間に収めてるじゃないの。」
というご質問もごもっとも。
ところがそういうニュースって、せいぜい1分程度の尺ですよね。その程度なら何とかなるんです。でも長めのニュースショーなどは、どこかでキャスターが感想などアドリブを挟んで尺調整を行っています。
そう見えなくてもそうなんですhappy01
でもこの番組は「12分ノーアドリブ」なんですよ。頭からペースが変わっていったら、ラストでとんでもない事になっちゃう。
そういう長さなんです。12分って。
その読みの采配が、すべて台本製作の段階で決まってしまうという訳です。
件のベテランディレクターは、そのさじ加減が抜群に上手い。


私も似たような番組を担当していますが、収録方式が違うのでさほど気にはなりません。要は「もっとアバウト」なんですねcoldsweats01 それなりの緊張感もありますがhappy01

この台本がなぜうまく12分で収まるのか。同業者ですからよく分かりますが、これは非常に単純にして手間のかかる作業の賜物なんですね。
もうお察しと思います。要は、台本が出来上がった段階で、ディレクターが台本そのものを音読しているんです。何度も何度も。
台本というのは往々にして、番組の尺より長めに書いてしまうことが多いですから、おそらく彼は音読のリハーサルを繰り返しながら、余分なセリフを一文字、二文字と削っているのでしょう。そうやって全体を刈り込んで、12分に仕上げる。
それは恐ろしく根気の必要な、地味な作業です。


よくドラマなどで、ちょっとつじつまが合わない場面繋ぎや、やや唐突なセリフが出てくる事がありますよね。
あれは、撮影はされたけど放送時間に収まらず、編集の段階でカットされた場面の弊害である場合が多いんです。その場面の間に、カットされた幻のシーンがある。
キャリアの長い監督なら、脚本の段階でカット場面を決められますが、それでも弊害を完全に抑える事は難しい。
脚本家は、全ての場面・セリフに意味と関連性を持たせているからです。
映画と違って放送枠という縛りがあるテレビ番組で、整合性のあるドラマを作ることがいかに難しいか。これだけでもお察し頂けると思います。
でもまだドラマやバラエティーはマシです。カットできますから。
この「12分」はそうはいかない。
作る前から完璧にしておかなければならないんです。

一度だけ、こういう事がありました。
いつものように本番が始まり、アナが原稿を読み進むんですが、サブ(副調整室)でスタジオに指示を出すディレクターの彼の様子がどうもおかしい。
「読みが2秒早い」って言うんです。12分の内、たった2秒ですよ。
後になって、それは本番直前の打ち合わせで台本を急遽カットしたので、文字数が2秒分短くなった為と分かったんですが、そのカットした文字数が、なんと10文字。
10文字違うだけで、全体のペースまで変わってきちゃうんです。
そこまでの精度を持つ台本なんですね。

「もうちょっとゆっくり読ませればよかったー」って悔やむ彼。
いったいどこまで高度な読み技を、アナウンサーに要求するのかとhappy01


でも、それがプロのこだわりなのかもしれませんね。
収録後の直しがきかないのなら、収録前までの下準備はストイックなまでに完璧に行う。ただその分、出演者やスタッフにも完璧を強いる。

アドリブが入り込む隙はまったくありませんが、その分、出来上がりはいつも一定のレベルを保てる。
ある種、職人技的な仕事ぶりです。


今日送られた台本も、彼が精魂込めて繰り返した音読リハの結晶でしょう。
そんな水面下の努力が、本番で活きるわけです。
実際、12分ピッタリで収録が終了した時の爽快感は、格別なものですが。
スタッフもアナウンサーも、その時口を揃えて言うんですよ。
「今日もまた、彼の掌の上で転がされたねー。」なんて。


そんな時も、サブから顔を出した彼は眉一つ動かしません。
彼にとっては上手く行く事が「当たり前」なん
です。それだけの準備はしたと。
孤独に音読リハを繰り返した努力はおくびにも出さず。それがプロの意地。
原稿用紙のマス目を埋めた、文字の時間が読めなくてどうすると。


私なんて、まだまだその境地にはなれませんねー。
いつもバタバタしちゃって。
また明日、その現場がやってきます。
貴重な勉強のチャンス。彼の神ワザを学ぶ為、頑張ってこようと思います。

一寸先の人生も読めない、おバカな私ですがcoldsweats01

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