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2008年1月10日 (木)

経験とも違う何か

ちょっと専門的なお話ですが。
誰が言ったか、映像業界にはこんな暗黙の決まりがあります。

「ロケ中の昼食時、ADやカメラアシスタントは、師匠であるディレクターやカメラマンより遅く食べ始め、早く食べ終われ。」
この言葉、私も新人の頃はよく言われました。
新人は師匠よりも覚えなければならない事が多い為、師匠と一緒にゆっくり食事している暇など無い。新人は師匠が食事を始めてもそれまでのロケの後片付けをし、誰よりも早く食べ終わって次の撮影準備に入れ。
そういう意味です。


テレビや映画業界の経験者は、多かれ少なかれこんな言葉でしごかれ、たたき上げてきたベテランばかりですから、とにかく食事の時間が極端に短い。それまで学生気分でのんびり食べていた新卒者などは、まずそこで度肝を抜かれます。
「いつまで食べてんだ!親分はもう食べ終わってんのに!」
激を飛ばされお尻を叩かれ、しぶしぶ食べかけを残して準備に走る新人君の姿を目にする度に、駆け出しの頃の自分を思い出して微笑ましくなる事も。

ところが稀に、おそろしく食事のスピードが速い新人君が居たりするのです。別に冒頭の決まりを知っていたわけでもなく、本当に早食いのスタッフが。

今日はいつものオタク話ではありません。悪い癖で、また教訓話めいて聞こえてしまったら申し訳ありませんが、これは今日、私が見たあるスタッフについてのお話です。テレビ業界にはこういう事もあるんですよ。

いつもの準備を終え、意気揚々と出かけた局のスタッフルーム。今年初めてのロケという事でモチベーションも最大値。早朝の朝シャンで気持ちを引き締め、カメラマンとの打ち合わせに挑んだと思って下さい。
と、そこに可愛らしい20歳そこそこの女の子の姿が。私の説明を一心不乱に聞く彼女は、どうやら今日のカメラアシスタントのようでした。
実力はともかく場数だけは踏んでいる私。こういう新人は一目見れば大体察しがつきます。「あー『何日目』ね。」


いつもお話している通り、テレビ業界に足を踏み入れた者はまず、理想と現実のギャップという大きな歓迎を受けます。どんなにタレントが楽しそうにはしゃぐバラエティー番組も、その影には血の滲むような苦労と、スタッフ全員のミラクルプレーがあるものなのです。
そのギャップを受け入れた者とそうでない者の差は、まず目つきに表れます。
番組を成立させる為に、具体的に行わねばならない「地味な苦労」をどこまで認識できるか。その決意の強さが「目」に出るのです。

件の彼女の「目」は、まだそこまでの決意を持っているようには見えませんでした。ただ先輩のカメラマンには従おう、分からない事は聞こうという「素直さ」は持っているようでした

いざロケが始まってみると、案の定彼女の動きはまだまだ新人のそれで。
カメラが狙う先にはボーッと立っているわ、常に携帯するべきレンズ拭きを忘れていたりと、それはもう目を覆いたくなるような有様なのでした。

ただこういう時にも、私はそんな彼女に声をかけられないんですね。
これはどういう事かと言うと、そこにはテレビ業界ならではの厳重な住み分けがあるからで。
つまり私はディレクターという「演出セクション」。彼女はカメラアシスタントという「技術セクション」という立場の違いがあるからなのです。


彼女に対しては親分のカメラマンが責任を持つ。叱ったり教えたりするのは彼の裁量。彼女がミスをしても彼が怒らなければ、それは彼が「本人に気づかせようとしている」という指導の一環なのです。
私たちが口出しできない領域なんですね。


「そんなセクショナリズムを持ってるから若者が育たないんだよ」なんて言われそうですね(笑)。でもこれはどんな業種にも当てはまる事と思います。
例えば同じ会社に居ても、セクション毎に仕事に求める物は違う筈。極端に言えば「同じお仕事をしていても、ディレクターとカメラマンは見ているものが違う」という事です。ディレクターは「繋がりの良い作品」を作ろうとする。カメラマンは「一枚絵としてのクオリティー」を優先する。この立場の違いはどうしようもありません。ですからディレクターがカメラアシスタントに指導する時、それはカメラマンの意に反する「ねじれた指導」となる場合もあるのです
適切な例ではないかもしれませんが、例えば火事が起きた時、火を消す事が第一の消防士に対し、火事現場の治安を死守しようとする警察官くらいの立場の差があります。言わば守備範囲が違うんですね。


ただそうは言っても同じ現場スタッフですから、彼女のどのスキルが欠けているのかは分かります。これを指導できないというのも辛いお話ですね。
しかし今日はちょっと違いました。
彼女の「スキルを超えた何か」を見たからです。


何て言うんでしょうか。
分かりやすい例で言えば「ALWAYS 続・三丁目の夕日」でも大活躍した鈴木オート期待の星、ロクちゃんみたいな感じなんですよ。
履歴書の特技欄に書いた「自転車修理」を「自動車修理」と間違えられて、鈴木オートに招かれたロクちゃん。純朴なのに一本気で、どんなに偉い人にも間違いは間違いとはっきり言うタイプ。でも弱い部分もあってどこか憎めない。
みんなに愛されるキャラクターなんですね。


ですからたとえ現場で彼女がミスっても、何となくいやーな空気にならない。彼女はどうやら関西出身のようで、私に一生懸命共通語で話そうとしているのに、時々関西弁が出てしまう。そんな所にも可愛らしさをおぼえる大きな要素があるのかもしれませんね。
こういう性格は、「空気に絵を描く」という感性のお仕事である映像業界にとって強い武器となります。たとえカメラは機械であっても、それをセッティングし、動かすのは人間ですから、場の空気が悪いとその淀みがカメラワークに出てしまうのです。
ロケスタッフが軽口を言い合い、場の空気を明るく保とうと努力するのはそんな所にも理由があります。ムードメーカーが一人居るか居ないかで、番組の出来は大きく変わるのです。


冒頭のお話は、そんなロケの昼食時の出来事。もちろん件の「早食いちゃん」は彼女の事です。これも大した才能ですよね。誰からも教えられず、百戦錬磨の親分カメラマンより早く食べ終わるというのも。
「早いなー」とみんなに笑われ、「ええ。昔から食べるのだけは早いんですよ。」とテレ笑いする彼女。こういう子って、何故か「大物になるんじゃないかな」なんて気にさせますよね。実はこの時、ロケはスケジュールよりかなり押していて、昼食の時間なんて15分くらいしかなかったんですよ。
とにかくお弁当をかきこむだけという。
そんな切羽詰った状況の中では、こんなちょっとした笑いがモチベーションアップの起爆剤となるものなのです。

ただ、このお弁当メニューの選定を彼女に任せたカメラマンは失敗しましたね。彼女が全員共通で頼んだメニューは「のりメンタイコ弁当。」これでもかとフライが乗った「若向きメニュー」でした。
「これは胃にもたれるなー」と眉をひそめた年配の照明スタッフの事まで配慮が及ばないところがまだスキル不足なんですね。


「こういう時はね。幕の内弁当を全員分頼んでおけば、ブーイングも出ないんだよ。」笑って諭す親分のカメラマンでしたが、スタッフ全員が彼女の事を怒れない。「まだ若いんだから」という気分に加え、早食いの一笑いでチャラになっちゃうんですよ。「チャッカリしている」というのとも違う。やっぱりスキルを超えた何かがあるんですね。

で、午後のロケでもそれなりにドジはするし、経験不足なところは目に付くんですが、なんとなく「ひたむきさ」は伝わってくる訳です。午後はウェディングドレスの撮影だったんですが、ドレスの向きを変える度にサッとスカートの裾を直したり。「分かる所はがんばります」的な気持ちが伝わってくるんですよ。
ひょっとしたら、これが映像業界を生き抜いていく上での「センス」なのかもしれません。スタッフに可愛がられるという意味での「センス」。


昔、先輩のディレクターに言われた事がありました。私に対してではなく、あるADさんに対しての評価です。
「アイツな。ADとしては全然アカンけど、ディレクターは出来るような気がすんねん。」(その先輩も関西人だったので、あえて原文のまま記載しました(笑)。


ディレクターという言葉を直訳すると「指示者」となります。スタッフや演者に指示して一つの番組を作り出す役割から来ているものですが、つまるところディレクターは一人では何も出来ない。たとえ台本が書けても、取材先を決めても、ロケスタッフやタレントが動かなければ番組として成り立たない訳です。
ですから、スタッフに信頼され、愛されるというのは番組を作る上でこの上ない武器になる。確かに最低限のスキルは必要ですが、それ以前に「スタッフに愛される。あいつのいう事なら聞いてやるかと思わせる。」という「人間的魅力」のようなものが必要とされるのです。
きっと先輩ディレクターも、その事を言いたかったのでしょう。
ディレクターとカメラスタッフという立場の違いこそあれ、きっと彼女のそんな天性の魅力は業界向きと思います。


ロケも終わり、取材テープを片付けていた私の元へやってきた彼女は、一言こう尋ねました。
「あのー、ディレクターさんって、今日この取材が終わってすぐ編集にかかられるんですか?」
彼女は、忙しかったロケの後なお編集をこなさなければならない私の体を気づかってくれていたのです。長いディレクター経験で、こんな言葉をかけられたのは初めて。


「ううん。今日はもうなんにもやらない。帰ってシャワー浴びるだけ。」
なんて答えた私でしたが、彼女のそんな言葉が嬉しくて。
帰宅後、思わずちょっと編集しちゃいました。
彼女、きっといいカメラマンになるだろーなー。なんて思いながら(笑)。

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