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2007年8月20日 (月)

クリエイターの看板

読者の皆様、ご心配おかけしました。
昨日一日、部屋でおとなしくしていたおかげで、なんとか持ち直したようです。
まだ完全に回復した訳ではありませんし、この残暑で元々体力を奪われる毎日ですから、無理せずゆるゆるとやって行こうと思います。
コメント頂いた方々含め、皆さんに感謝致します。

さて。昨日、閉め切った部屋の中で、やや熱っぽい体を持て余しながら考えていた事がありました。
まー大した事でもありませんが。

体の熱も頭に回り、いつも以上におバカかもしれません。
お許し下さいね(笑)。
先日、お仕事のスタッフと打ち合わせしていた時のお話です。


「鼻を手術する事にしたんですよ。」彼はそう言いました。
「えーっ、どうしてですか?」驚く私。
「この鼻、大きすぎるでしょ。ちょっと小さくしようと思いまして。」彼はそのセリフの後、一際大きく笑いました。「ウソウソ(笑)。」

実は、彼が昔から悩んでいた鼻づまりや鼻炎などを緩和する為の手術だそうで、以前にも一度行った事があるそうです。
今回は二度目の挑戦。

「あの手術を受けるとしばらくは鼻が塞がっちゃって、鼻呼吸が出来なくなるんですよね。
口だけの呼吸になるんですよ。以前なんて食事中はパニックで。だって口では物を食べてるのに呼吸しなくちゃいけないわけでしょ?」
「なるほどねー。想像した事もないなー。風邪とかで鼻が詰まった状態が続くわけですか?」
「そうそう。怖いですよー。空気がなくなったみたいで。」

そんな会話になったのには理由がありました。
以前、お盆進行でお仕事のスケジュールが変わった事をお話した事があったと思います。
その影響が彼の所にも来たと思って下さい。
彼はいわゆる「CGタイトル担当」。番組のタイトル文字をはじめ、番組内で流れるスーパー字幕などを作るエキスパートです。ディレクターは彼にスーパー原稿を渡し、彼は編集作業日までにそのCGスーパーを完成させる。
言わば番組制作の詰めの部分に無くてはならないセクションの担当者、という訳ですね。

通常、私の番組のCG担当は、彼を含む二人のスタッフで回しています。編集日にはいつもどちらかのスタッフがスタンバイし、スーパーを入れる際の不測の事態に備えてくれる事となっている訳です。
「スーパーの字幕なんて事前に原稿を渡して作ってもらうんだから、編集の時には出来上がってるんじゃないの?別にスタッフは居なくてもいいじゃん。」と思うでしょ。
ところがそこがテレビの恐ろしい所。こればっかりは経験者でなくては分かりません。
編集時の様々な都合で、スーパーの文面や出し方、位置が変わるなんて事は当たり前なのです。ですから編集時、CG担当者には絶対居てもらわなきゃ困ると。

その編集日が、彼の鼻の手術日と重なってしまったという訳です。
「三ヶ月も前から予約してあったもので。」すまなそうに話す彼に強くは言えません。
「じゃー、もう一人の彼は?」尋ねる私。その時「もう一人の彼」はその場に居なかったんですが、説明する「鼻の彼」の顔は一際曇りました。

「いやーその・・・言いにくいんですが・・・」


「コミケ?」
久しぶりに聞く懐かしい言葉に、私は意外なほど驚いていました(笑)。
どうやらそのもう一人のスタッフは、私と同類の「オタク」な趣味人だったのです。

「鼻の彼」はそちらの趣味についてはあまり明るくないらしく、「コミケの彼」については非常に興味深そうに話し出しました。
「これ、見てみて下さい。」「鼻の彼」がクリックしたパソコンの画面には、見た事もないコスチュームに身を包んだ「コミケの彼」の姿が。
『ONE PIECE』にちらっと出ただけの、ものすごくマイナーなキャラなんだそうです。奴はこういうコスプレで同人誌を売る事が何よりの楽しみなんですよ。」
「鼻の彼」はその言葉と共に、深いため息をつきました。


「ONE PIECE」には詳しくない私。そのキャラの名前も知らなければ、そのキャラをコスプレする事の「濃度」も分かりませんが、「コミケの彼」の意気込みはその写真から痛いほど伝わってきます。
「今度の編集日、このコミケと重なるそうなんですよ。何ヶ月も前からブースも予約してあるそうです。」「鼻の彼」のため息はますます大きくなるばかり。

「まあしょうがないですね。スーパー直しが無い様、こちらでなんとかします。」
「お盆進行」のしわ寄せとは言え、「鼻の手術」と「コミケ」では仕方がないと。その日を編集日にした私も悪かったんですから。苦笑いと共に、私は謝る彼の申し出を受けました。


実は私、「コミケ」なるイベントに行ったのは二十数年前に一度だけ。それも地方で開催されたごく小規模のものでした。当時はまだコミックス・アニメーション・特撮等の住み分けがなされておらず、私の守備範囲・特撮関係のファンジンなどは、このコミケでなければ手に入らなかったのです。「ワンフェス」「トイフェス」などが盛況を見せる、はるか以前の事でした。
現在、東京などで開催されているコミックマーケットは、当時よりさらにジャンルが先鋭化、細分化され、世代交代もあって、おそらく私の窺い知れないイベントと化している事でしょう。同類とはいえ、そちらの方面には元々さほど興味の無かった私は、今のコミケそのものにはまったく食指が動かないのです。
ただ趣味としては極めて近い事も確か。
その言葉をここで聞くことになろうとは。

まあ、考えてみれば無理もありませんね。
私が生業とするテレビの業界は、元々映像や紙媒体などの創作物に心を惹かれた人々が集まる所。石を投げればオタクに当たる世界です。ましてやCGルームで日夜パソコンに向かうスタッフ達ですから、そんな趣味人の一人や二人居ても何の不思議もありません。
逆に、居ない方がおかしいのです。
その「鼻の彼」のため息交じりの説明を皮切りに、私も堰を切ったように怪獣への熱い思いを語ったのは言うまでもありませんでした(笑)。

「えっ?怪獣のコスプレですか?」心なしかちょっと鼻が膨らんだような彼(笑)。
「いや、この暑い中着ぐるみに入る度胸はありませんが。私の場合、作品の脚本や演出に興味がありまして。」
そんな私の言葉に彼の鼻はいっそう膨らんで(ちょっと可愛そうですね。ごめんなさい。)
「それは全然良いじゃないですか。貴女は今ディレクターなんですから。自分の趣味を仕事に活かしている訳でしょ。」

「でもその「コミケの彼」も、自分の趣味をCG作成に活かしているんじゃ?」
ところが私のその問いかけに、彼は大きく首を振ったのでした。


「いやー私、奴のこの趣味を知ったのはごく最近なんですよ。もう二年の付き合いなのに。」
パソコンのコスプレ写真を見つめ、彼はそうつぶやきました。
「実際の所、こういう才能と情熱があるんなら、もっとそれを仕事に活かせてもいい筈なんですがねえ。それがさっぱりで。やっぱりコスプレとCGって違うジャンルなんでしょうか?」

同類と思われ(笑)逆に聞かれちゃった私はちょっとアタフタ。
「いやー共通するものはあると思うけどなー。逆に、彼がこの趣味を二年間も隠していた事に問題があるのかもしれませんね。話しやすい雰囲気作りと言うか、もっと彼を伸ばす環境を作ってあげるべきかも。」


そんな答えを潮時に打ち合わせは終わりました。「コミケの彼」についてまた相談させて下さいと話す「鼻の彼」。同僚を思いやる彼の人となりが心地よい一時でした。

今まであまり考えた事がなかったんですが、私は初対面の相手にも自分の趣味を話す事が多いです。ディレクターという、コミュニケーションを武器とする商売柄かもしれませんが、とりあえず自分の趣味・嗜好を相手にわかってもらう事が、より良い人間関係の第一歩と思っています。
確かに最近は世代交代もあり、私たちの世代がビジネス上の中核をなす事が多い為、「趣味は怪獣、ヒーロー」と公言してもそれほど引かれる事はなくなりましたね。ただ、以前県庁に勤める学生時代の同級生から言われた「それはお前がテレビ屋だからだよ」という言葉も的を得ている部分はあるでしょう。
何かとお堅い公務員の世界では、鉄腕アトムの柄をあしらったネクタイを締めていただけで変人扱いされるそうで。いやー私なんかそんな世界に居たら、一日で「鼻の彼」のように窒息しちゃうかもしれません(笑)。


いわゆる業界人と呼ばれる人たちは、確かに一般企業に勤める方々と比べ浮世離れしている部分があります。
「常識をどこまでひっくり返せるか」が彼らの命題でもあり、「面白い事」への嗅覚を鋭く持っている事が、この業界で生き抜く術でもあるからです。
そんな業界の末席を汚す私も、他の方々から見ればかなりの変わり者に見える事は間違いないでしょう。
そりゃーそうですよね。「女子な男子」ですから(爆笑)。

私の周りの仕事仲間にも一人として常識人と呼べる人は居ません。どんなに普通に見えるスタッフも、一皮剥けば呆然とするようなエピソードを持っています。
そんな癖の多いスタッフばかりですから、普段でも事件が起きない日はありません。それが必ずしもプラスに働かない事だってあります。前日お酒を飲みすぎて今一つ調子の出ないカメラマンだって居ます。
ただ不思議な事に、そういうアウトサイダー的な存在に限ってミラクルプレーをする事も多いんですよね。要は結果の振り幅が大きいという事です。
ディレクターだって同じ。乗れる企画とそうでない企画で、作品の出来は天と地ほど違うのです。


ですからディレクターはじめスタッフは「自分の売り」を主張する事にやっきになります。
ディレクターなら自分の得意なジャンル、カメラマンなら動体視力の良さ、オーディオマンなら耳の良さ、などなど・・・
「この分野なら誰にも負けない」という強力なアピールが、私達テレビ屋の看板なのです。
確かに、誰がやっても同じお仕事をこなせる最低限の実力は必要。ただそれを越えてなお認められるだけの看板がなければ、この業界では生きてはいけない。

こういう事って映像関係の専門学校などでは絶対教えてくれませんが、実はクリエイターにとって一番大事な事なんじゃないかと思います。
私もこの業界に入る時、局の面接官に聞かれました。
「あなたの売りは?どんな番組を作りたいの?」


ただ与えられたお仕事を漫然とやっているだけでは、この業界に居る意味はないのかもしれません。
「このジャンルだけは誰にも負けない」という強い自負。それを現実に実践できるだけの情熱。テレビが「夢の玉手箱」と言われなくなって久しいですが、作り手たちはそんな現状の中「自分がテレビと関わった証」を残そうとやっきになっているのです。


冒頭の「コミケの彼」は、きっとその事にまだ気づいていないのでしょう。彼がその情熱を自分の業務に向ける気持ちになった時、周りも彼の実力を見直す筈です。
そんな事を考えながらわが身を振り返ると、ちょっと反省してしまう事もありますね。
「私はどこまで、自分の看板を磨いているんだろうか」なんて。


以前ほど企画立案に関して積極的になっていない自分。
怪獣趣味を番組に活かす為の努力を怠っている自分。
これで怪獣好きなんて言えるんだろうか。
自分には「夢を現実化できるかもしれないルート」があるんだから、普通のファンよりは恵まれている筈なのに。それを忘れていたのかもしれません。
「コミケの彼」の事を他人事とは思えませんね。
「ネヴュラ」でお話させて頂けるコメンテーターの皆さんのご意見、特撮作品への熱い思いを、ほんの少しでもブラウン管へ反映させる情熱を持たなきゃ。


ちょっとそんな事を考えてしまいました。つまらないお話でごめんなさい。
今度、「コミケの彼」に聞いてみようかな。
「あなたの売りは?」

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