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2007年7月23日 (月)

作らせる側の論理

スタッフに案内され覗いた局の防災ルームには、前任者と引継ぎを行う新たな担当者の姿がありました。
アポなしの訪問をちょっと後悔しましたが、名刺交換と共に交わす挨拶に込めたやり手らしい彼の眼光は、私を捉えて離しませんでした・・・

正直な所今日のお話は、興味の無い方にはつまらないかもしれません。前日のお話とは真逆の、映像業界の内幕を暴露するようなエピソードだからです。ですから古の名作番組に心酔され、夢を求めている方にはあまりおすすめできません。
おそらくアクセス数は激減、コメント0は確実でしょう(笑)。
しかしながら映像作品は常にこういう内幕と背中合わせに作られている事も事実。私たち現場スタッフは、こういう現実にいつも晒されているのです。

局の隣のファッションビル、一階のおしゃれなレストラン。顔なじみの様子でどっかと腰を下ろした彼は、初対面とは思えぬ親しさで私を手招きしました。
「暑いねえ。まあ冷たいものでも。」
そう切り出した彼は、私が今手掛けているレギュラー番組のスポンサー担当者。この7月、これまで私が懇意にしていた前任者の配置換えとともに、新たに番組担当のポストについたのでした。
それまでの彼はまさに営業畑一直線。これまでも地元の各局との付き合いを通じて数々の番組を立ち上げてきたベテランです。その数々の番組名を聞いただけで、彼の営業手腕の確かさ、ある種の豪腕ぶりが窺えます。
彼は今回の配置換えに関して若干の不満を漏らしていました。曰く「社内でのやんちゃが過ぎて今のセクションに来ちゃいまして。」本当はプロダクション付きの担当者としてデスクの前に座っているよりも飛び込みでバリバリ仕事を取って来たい。それが自分に向いているんだ。彼はそう言いたかったようでした。
「いや、決してテレビ担当を軽く見ている訳じゃないんだけど」とフォローするあたりはさすがに営業、抜かりはありません(笑)。

「私が配置換えになった理由を推測するとね。」スポンサー営業部で活躍していた彼は営業方針の違いで役員クラスと衝突。
左遷の雲行きを感じて根回しをしたもののトップメンバーをフォローしきれず、人事会議の40分後には内示を言い渡されたそうです。
「そりゃ分かるよね。全員に配られる名刺が私だけ無かったんだから。」無理に苦笑いを作る彼の顔には悔恨の文字が張り付いていました。


実際、こういう事ってよくありますよね。「ネヴュラ」読者の皆さんはいずれも毎日激務に勤しまれている方々ばかりでしょうから、ご自分では無いにしろ職場でそういう場面をご覧になった事もおありと思います。私でさえそんな場面を見る事は日常茶飯事、それは厳しい現実です。
彼の話は続きます。彼と交代に営業のポストに就いたのはこれまで私の担当だった管理部長さんでした。その部長、彼とは逆にこれまでずっと番組担当だったものですから営業の事などまったく素人。
彼としては心配で仕方がないと。
「俺がこれまで掴んできたお客をうまく回してくれるかどうか。そればっかりが気になっちゃってさ。」営業職に携われる読者の方は、彼の気持ちがよくお分かりになるのでは?
今は気ままなフリーの身とはいえかつてはそんな経験も経てきた私には、彼の言葉の端々に浮かぶ営業職への未練が他人事とは思えないのでした。

「さて。」目の前のアイスカフェオレを飲み干した彼は、満を持してという表情で本題に入りました。
お話の内容はこうです。

今、当社から局の制作部を通じ、依頼している番組。その内容の見直しを図りたい。ついてはまず、現場責任者の貴女の意見を聞きたい。

「なるほど、いかにも営業担当者らしいやり方ね。」
私はその時、そう思いました。

テレビ番組の内幕にお詳しい読者はお分かりと思います。とかく番組というのは出演者、脚本家、監督などスタッフにスポットが当たりがちですが、実は局のプロデューサー、広告代理店、そして何よりもお金を出すスポンサーが動かなければそもそも成立しない。これは厳然たる事実です。

通常、番組製作のルートとしては
スポンサー代理店局営業局プロデューサープロダクションプロデューサー現場ディレクター
という流れがあります。

私のお仕事の場合、途中に広告代理店が入らないやや特殊な事情が絡んではいますが、それでもこういう重要なお話の場合、本来ならプロダクションプロデューサーからお話が来なければおかしいのです。私はこのお話を聞くのは初めて。結論から言えば一番上から途中をカットし、一番下へお話が振られた事になります。
言わば「超トップダウン」という訳です。

これは元営業担当ならではのやり方、俗に言う「根回し」ですね。
こんなお話がスポンサーから直接される事はめったに無い。
私はちょっと戸惑いました。こんなお話、現場に直接されても困ると。私に決定権は無いし。局やプロダクションの思惑が複雑に絡み合う「番組」という商品の見直しを、こんな形で決める事は乱暴すぎると。
ただ、彼の思いは別の所にあったようです。
営業として現場の声を拾い続けてきた彼には「全てを知るのは現場スタッフ」という哲学があったんですね。


「俺は前任者のスタイルをそのまま引き継ぐ事は好きじゃない。自分が来た以上、自分にしか出来ない仕事を残したい。営業職には未練もあるが、こうなったら腹を括りたいんですよ。その為には現場をよく知る方のご協力が必要なんです。」
おそらく同年輩であろう彼の言葉を話半分にしか取れない私でしたが、それでも「まず現場」と語る彼の思いはそれなりに伝わっては来ます。
ただ、はいそうですかと乗れないのが大人の事情。
スポンサーとディレクターのスタンドプレーを許すほどテレビの世界は甘くはないと(笑)。


「とりあえず、現場担当として「こう変えたい」「こんな企画が面白いんじゃないか」という案が欲しい。とりあえず予算は度外視して。」
力説する彼の表情には、元営業担当者ならではの意地が見え隠れしていました。
「いい企画なら予算は考える。なーに予算繰りなんて社の裏表を知り尽くしている俺に任せろ。うまくやるから。」という表情。
あー。これが言いたかったのねー(笑)。
「貴女が番組作りのプロなら、俺は予算集めのプロだぜ。」
その自信。


私はこういう人物は嫌いではありません。確かに営業担当者ならではの大風呂敷感は拭えませんが、とりあえず「何かを残したいんだ」「流されたくないんだ」という気概は伝わってくる。
実際、過去に名作と呼ばれたテレビ番組の裏には、きっとこういう「新しい事をやりたい」という思いがあった筈でしょうから。


実際、映像作品の製作現場に於いて予算のあるなしは作品の出来、存続に大きく影響します。
初作「ウルトラマン」が毎回の予算超過によって、作れば作る程赤字が膨らんでいった事は有名ですよね。
他にも大映映画「大怪獣空中戦ガメラ対ギャオス」でギャオスが放つ超音波メス。あの画面合成処理は一回につき当時の金額で3,500円の工賃が発生し、湯浅監督はギャオスが超音波メスを吐く度に「正」の字を書いてカウント、予算表とニラメッコしていたなんてエピソードも聞きます。
かように作品とは予算と隣り合わせ、大変シビアな現実なのです。


ですからたとえハッタリとはいえ、スポンサーという言わば「作らせる側」の気合が見て取れるのは実に頼もしい。
20年前の私なら有頂天になっていた事でしょう(笑)。
年を重ね、今ではそんなお話にモチベーションを上げる程若くはなくなりましたが、「ちょっと夢を見られるかな」なんて嬉しい気持ちになれた事も事実です。
何より私、「企画大好き」なんですよ(笑)。

そんな性癖の片鱗は、「ネヴュラ」読者の皆さんならお感じになっている事でしょう。「オタクイーン、毎回変な事ばっかり考えるなー。企画と言うより妄想だな。これは。」
そう。妄想。「WOO」を発案した頃の金城哲夫のように。
確かに不定形生物を映像化する映像技術が無かった1963年当時、彼の発想は妄想の域を出なかったでしょう。しかしやっぱり「考える事」「発想する努力」は必要と思うのです。
考え方によっては、彼は「CG時代に先駆けた発想を持っていた」という見方さえ出来るのですから。


「とりあえず秋をめどに番組内容を一新したい。斬新な企画を待ってますよ。」
気がつけば一時間が経っていました。その実現までにはきっと山ほどの紆余曲折があり、おそらくこんな密談だけでは何も変えられないかもしれません。
根回しの山。私も今日の持ちかけを上に報告する義務があるでしょう。でも久しぶりに「新企画」へのきっかけが出来ました。

こういう事があるから、テレビ屋はやめられない。

お店の前で別れた彼の後ろ姿は夏の陽炎に包まれ、まるでオーラを纏っているように見えました。

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コメント

MIYUKIさま。こんばんは。

一般視聴者の私からは、伺い知ることのできない制作現場のお話とても興味深く拝見しました。
スポンサー営業というお仕事もはじめて知りましたし、番組制作ルートのお話も勉強になりました。
テレビ番組っていろいろな過程を経て、制作されているんですね。ぜんぜん知りませんでした。

クリエイティブな世界だから、きっといろいろな人がいて、現場では毎日、厳しい事も、楽しい事も、いろいろな出来事があるのでしょうね。そういう中から、いろいろな作品が生まれるんだなって、あらためて感じました。
今日はMIYUKIさんのお仕事に対する情熱が伝わってきて、
最近ちょっとバテ気味の私も元気になりました。
明日も頑張ります!(^^)

hikari様 こんな専門的なお話にまでコメント頂いてすみません。
いやー難解である事は充分承知しているんですが、番組や映画などを完成品でしか判断できないゆえ顧みられない製作現場の内幕は、本当は皆さんにもっと知ってもらいたいと思うんですよ。
「なんでファンの思う通りにならないのか」の理由は、こういう複雑なルートに絡む、それぞれのポストの思惑によるものなんですよね。
ただそれぞれの担当者は本当に頑張っています。その努力の結晶が作品のヒットに繋がれば、それほど嬉しい事も無いんですが(笑)。

でもどんなお仕事も、hikariさんはじめ現場で頑張る皆さんのご苦労は同じですね。私だけじゃありません。
こうしたコメントのやりとりは、お互いのモチベーションアップの基となりますね。本当にありがとうございます。
梅雨明けはまだですが、暑さも本番を迎えていますね。hikariさんも体調にお気をつけて頑張って下さい。応援しています(笑)。

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