2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

ネヴュラ・プライベートライン

無料ブログはココログ

« 今日も怪獣日和 | トップページ | オヤスミナサイ »

2007年6月21日 (木)

サブはその一言で凍りつく

「お疲れ様でした。」
今日の私は、この言葉の歯切れが悪い。
「ちょっと待ってて下さい。」
スタジオを飛び出した私は、一直線にサブへ向かいました。

今日はちょっと固く、お仕事の現場のお話です。
まー別にグチのたぐいじゃありませんしもう解決した一件ですから、さほど身構えられなくてもいいんですが。こんな局面になったら、皆さんならどうされるのかな、なんて思って。
ちょっとお話してみたくなりました。軽くお聞き下さい(笑)。

今日の私のお仕事は、いわゆる「フロアディレクター」。
よくスタジオなどにお客さんを呼んで番組の公開収録を行う時など、客席側からスタジオの出演者に指示を出しているスタッフが居ますよね。あれです。

番組中タレントなどにからかわれている場面をよくご覧になると思いますが、この通称FDと呼ばれるパート、実際にはスタジオ部分のすべての仕切りを任される、大変重要な役目を担っているのです。

大はタレントのテンションを上げる事から、小はお客さんの拍手のタイミングまで。FDが指示を出さなければ、スタジオはまったく機能しなくなってしまうと言っていいでしょう。
リハーサルの段階で、タレントさんなんかも「ここでコケましょうか」などとFDに相談し、FDの許可を得る事だってあるんですよ。
言ってみればFDは、「スタジオに於ける監督」なのです。
ただそれはあくまで、「サブ」と呼ばれる副調整室に座る番組ディレクターの演出意図に則って動く事が必須条件。ですからディレクターとFDは、制作する番組について方向性を同じくしていなければなりません。

今日私が携わった番組は前述のような大げさな物ではなく、割合肩の力を抜いて臨めるものでした。
出演者はベテランのアナウンサー一人。カメラは固定で観客は無し。VTR収録番組で生放送ではありません。こんな状態でミスを起こす事など考えられないほど簡単な現場です。
サブに座るディレクターも百戦錬磨の巨匠(笑)。黙っていても周りが動いてくれるほどの影響力を持っています。
私も安心して本番を迎えました。

番組の長さは12分。この番組は局の規約で、台本が一言一句決まっています。一言も言い換えが許されない台本です。
それだけ重要な内容を伴う、いわゆる「お堅い番組」なのです。
しかも本番一発撮り。12分を何パートかに分けて収録する事はできません。
物理的には可能なのですが、それは契約の関係で許されないのです。
スタジオトークとあらかじめ編集されたロケなどのVTR、そしてサブから出されるBGM、CGスーパーをすべて乗せる。収録開始から12分後には放送できる番組が完成しているという状態にまで追い込みます。

こういう制作体制の番組の場合、収録途中で「ちょっと止めようか」なんて事を行わないため、まず本番通りにリハーサルが行われます。
本番と全く同じようにアナウンサーが喋り、BGM、スーパー、VTRも乗せて、うまく12分間で番組が成立するかを試してみる訳です。
そういう意味でこのリハは大変重要な行程であると言えましょう。
ほとんどの場合、このリハの段階で問題点が発見され、本番収録時はまったくアクシデントもなく収録が進むものなのです。

前段が長くなりました。今日のお話の火種は、このリハーサルと本番の間に起こったことなのです。

リハーサルも終わり、時間も予定通りオンタイム。(タイムキーパーさんの指示通りの時間配分)スタジオのキャスト、スタッフとも安心して本番を迎えようとしていた時の事です。
私のインカム(スタジオとサブを繋ぐ通信機)に、サブのディレクターから指示がありました。

「ちょっと台本を変更するから。今、担当者がスタジオへ行く。」

ほどなく訪れた彼はこの番組のプロデューサー。言わば親分です。
「二箇所あってね。こことここ。」
何しろ一言も言い直し出来ない台本です。アナウンサーと二人で間違いなく聞き取り、台本にもしっかり赤ペンを入れました。

それはよくある変更。当初の台本記述「運営記録」「運営」「記録」の間に新たに「会」を入れ、「運営記録」とするような、単純な内容でした。
(実際の単語は違いますが放送前の為、守秘義務と言う事でご了承下さい。)

変更部分も確認し、いよいよ本番。リハーサルも完璧に行われていた為本番も一回で見事に成功、キャスト・スタッフとも胸を撫で下ろし、いざ「収録の確認」となりました。
一発撮りの番組はこのように、今収録した番組を見直して内容に間違いがないか確認するのが常です。私も注意して確認に臨みました。

「あれ?」そこで一つの違和感が。

この番組の台本作成者はディレクター。私は関与せず、本番収録直前に台本を受け取ります。その為、前述の「運営記録」という言葉が台本上に何回登場しているか確認できません。
もうお分かりでしょう。
本番前にプロデューサーから聞いた変更箇所は二箇所。ところがディレクターの見落としか、台本にはもう一箇所
「運営記録」という言葉があったのです。そこは変更されていない。
当然の事ながらアナウンサーは台本通り、しっかり
「運営記録」と読んでしまっています。
私はあわてて周りを見渡しました。

驚く事にプロデューサー・ディレクターをはじめ、現場のスタッフ・キャスト全員が、本番収録後の今もこの事実に気がついていない。気づいたのは私だけだったのです。
やがて確認も終了。
「お疲れ様でした」の声と共に、現場の緊張感も解かれます。

えーっ。「お疲れ様」じゃないじゃん。間違ってるよ。
どーすればいいの?カメラさんは撤収を始めてるし、メイクさんはアナウンサーのメイクを落とし始めてるし。

実際の所、12分間の番組を一発撮りするのは大変な事です。小さな番組であっても数十人のスタッフが現場で動きます。
一度OKが出たものを一人のスタッフが「ちょっと待った」をかけるのは、かなり勇気が必要な事なのです。

気がつかなかったフリをすればこの場は丸く収まる。他のスタッフ全員が気づかなかった訳だし。
でもいざ放送されてから問題になったら、その時気づいていた私は絶対後悔する。

皆さん、こんな時皆さんならどうしますか?
私はやっぱり我慢できませんでした。これが私の因果な性格、この性格が元でどれだけ貧乏クジを引いた事でしょう(涙)。
「ちょっと待ってて下さい。」
スタジオを飛び出した私は、一直線にサブへ向かいました。

私の指摘を受けたプロデューサー・ディレクターは「あっ!」と言ったきり動きません。
凍りつくサブ。この寒さは空調のせいだけではないでしょう。
静止した時間が全員を包み込みます。

彼らは考えているのです。私と同じことを。
今からまた12分間の収録を行う必要は?この間違いがそれだけの重要性を持っているのか?
結論が出ました。
「今回はもうこれで行っちゃおう。今のでOK。直さない。」

読者の皆さんは不思議に思われるかもしれません。
「何で?12分間ぐらい撮り直しすればいいのに。」「それは怠慢じゃないの?」
個人のブログなのであえて言います。私も同じ意見です。
私がこの番組の担当者、つまりディレクターだったら、きっと撮り直していたでしょう。

でも今日はあくまでお手伝い。FDの立場でこれ以上主張する事は越権行為に当たります。
今日のディレクターだって本心は絶対直したい筈なのです。でもこれはご同業の方々ならお分かりと思いますが、色々な現況が邪魔をしますよね。
スタジオや各スタッフのタイムリミット。アナウンサーの声のコンディション・・・
現場は無限に使える訳ではないのです。

「お疲れ様。」スタジオに戻った私の元に歩み寄ったディレクターの顔は、ちょっとくやしそうに見えました。
「すみません先ほどは。出すぎた真似をしました。」
謝る私に、彼は一言つぶやきました。
「いやいや。全然。ありがとうね。」
お仕事って、必ずしも思った通りには行きませんよね(笑)。

こんなつまらないお話にお付き合い頂いてありがとうございました。
こんな風にテレビの番組だって、決しておちゃらけて作っている訳ではないんですよ。
番組によって節度を守る必要がある訳です。
でもそんな現場の張り詰めた空気、心地よい緊張感に魅了される私は、根っからのテレビ屋なのかもしれませんが(笑)。

« 今日も怪獣日和 | トップページ | オヤスミナサイ »

「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

MIYUKI様、こんばんは。
TV局のスタジオが高い緊張感に包まれたプロの現場であること、あらためて感じました。ちょっとした見落としでも一度放送されてしまうと、どうにも出来ないですものね。普段なにげなく観ているテレビも現場の皆様のご苦労があってこそ。機材や人、制作費、スケジュール、人間関係・・現場には私みたいな一般の人にはわからない様な、いろいろな事情が絡み合ってるのでしょうね。
ミステイクの指摘、とても勇気ある行動と思いました。私なら、ちょっとタイミングずれたら、その時どう行動できたか正直なところわからないです・・・。でも後で後悔はしたくないですね。
今日のお話、TVのお仕事への愛情と、MIYUKIさんの素晴らしいプロフェッショナルマインドを感じました。

hikari様 コメントありがとうございました。
まーこんなお仕事のお話をお聞き頂くのも大変心苦しいのですが、コメントまで頂けてありがとうございます。

今回のお話、舞台は確かに私のテリトリー、テレビの世界ですが、この手の判断に迫られる事はどんなお仕事にもありますよね。
私も今まで少しずつながら色々なお仕事の現場を見てきましたから、ケースは違えど今回のような局面は毎日のようにあると思います。

ですから私の判断なんて、皆さんからすれば本当に小さな事かもしれません。でも私はこだわっちゃう。因果な性格です。
こんな局面での判断に正解は無いのかもしれません。合否は後になって分かる事で。だからきっと事態発生の瞬間の判断基準は、「今の自分を否定したくない」この一点だけなのかもしれません。
考えてみれば青臭いお話ですよね(笑)。
でもそうやって生きてきてとりあえず後悔していないので、まーいーかと笑っている自分が居ます。
本当は賢くない生き方なんですよね。これって(笑)。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/104767/6867519

この記事へのトラックバック一覧です: サブはその一言で凍りつく:

« 今日も怪獣日和 | トップページ | オヤスミナサイ »