桜井Pとの約束(接触篇)
「・・・やっぱりエレベーターが良かった。」
性懲りもなくエスカレーターに揺られながら、私は苛立ちを覚えていました。
そんな情けない天然ぶりを反省しながらたどり着いたパルコ8階。
先日から「ネヴュラ」でしつこくお話している
「ウルトラマンシリーズ誕生40周年[オブジェクツ・サブジェクツ]会場です。
4月21日土曜日・午後2時。この展示会、そして写真集「OBJECTS Imagination of ULTRA」のプロデューサー、桜井浩子さんをナビゲーターとして開かれたトークショーに、私は満を持して参加したのでした。
桜井浩子さんと言えば、ウルトラファンにはもう説明する必要もない重要人物。「ウルトラQ」では勝気な新聞記者、江戸川由利子役で。また「ウルトラマン」では科学特捜隊の紅一点、フジアキコ役として有名な女優さん。元祖「ウルトラヒロイン」です。
彼女の役割はトークショーのナビゲーター。
他のゲストをリードしながらお話を転がしていく司会者のポジションです。ここ数年、ウルトラ世界に於ける彼女の位置づけは「出演者」から「スポークスマン」に変化しつつありましたからそれも納得できるところで。
ましてや今回の写真集、また展示会もご本人のプロデュースという事でしたから、その意気込みも大きいものがあったのでしょう。
ゲストとして招かれたのは「ウルトラマンメビウス」最終二話の特技監督として有名な原口智生氏・今回の写真集のフォトグラファー照内 潔氏。このメンバーにナビゲーター桜井氏を加え、トークショーはまず三名でスタートしました。
私、そもそもこの展示会はBPさんのブログで知ったものですから、トークショーの中身や目的などまるで見当が付かなかったんです。
せいぜい「ウルトラプロップの魅力」や「展示会開催の経緯」などが話題に上るかな、程度の認識だったんですね。
ところがトークショーが始まると、私のそんな認識は実はまったくビント外れだった事が分かりまして。
相変わらずおバカな私でした。
今回の展示会は、そもそも3年前に発売されたこの写真集から派生したものだったんですね。プロデューサー桜井氏の談によるとこの[OBJECTS]という写真集は、そもそも桜井氏と40年来の遊び仲間だったアートディレクター金原明彦氏が携われた、別の写真集に端を発していました。
(ここで桜井氏の紹介で金原ディレクター登場、トークショーは4人で進められる事に。)
照内氏の写真・金原氏のデザインによって作られたその写真集はウルトラとはまったく無関係のものでしたが、桜井氏は女性の感性で「こういう、大人や女性が見ても面白いウルトラの写真集を作りたい」と思い立ったそうです。
そして「ウルトラを応援する子供達にも、本物を見せる事でどこか心に残る物を作りたい」という思いも手伝ったとの事。
4年前から円谷プロの制作部門に正式所属し(飯島敏宏監督にも勧められたそうですが)映像部門とは別の角度からウルトラ世界を広める役割を担った彼女にとっても、絶好のテーマだったのでしょうね。
そんな「おしゃれな写真集」を目指した彼女でしたが、とにかく照内氏、金原氏ともウルトラに関してはまったくの素人。
この現状を知った時、彼女はある人物に白羽の矢を立てました。それが三人目のゲスト、原口監督なのでした。
桜井氏からこのお話を振られた原口監督は「何で俺が」的な感触で、さほど乗り気ではなかったようです(笑)。しかしウルトラオタクを自認する原口氏。桜井氏に口説き落とされるまでもなく、ウルトラプロップを目の前にして次第にエンジンもかかっていったのでは。
[OBJECTS]というタイトルが示す通り、当初この写真集は「ウルトラQ・マンで使われたプロップを「無機質な物体」として捉え、非常にクールに演出するというコンセプトでした。 つまりウルトラマンマスクであれば「ウルトラマンという宇宙人の顔」という捉え方ではなく、「マスクというプロップ」という捉え方で挑んだ訳です。そこには非常にクールな、ある意味突き放した視点が存在します。
実際ご本人の絵コンテにもその視点は貫かれていました。
メンバーも揃い、桜井氏の指揮の下写真の撮影が始まりました。ここでは全てのクリエイターがお互いの癖を探りあいながら作品制作に挑みます。
ここで面白いお話がありました。
桜井氏は当初、原口監督と照内カメラマンのファーストコンタクトに気を使ったとの事。
片や「メビウス」の特技監督、片や「LEON」など第一線のファツション誌を手掛けるフォトグラファー。個性のぶつかり合いです。この交通整理もプロデューサーの重要なお仕事。
しかしその後の心配は杞憂に終わった、と桜井氏。
レイアウター金原氏を含め、挨拶から一時間もすると三人はまるで少年のように目を輝かせ、撮影に没頭していたとの事。
桜井氏はこう語りました。
「私もQ・マン当時、多くの才能あるスタッフとお仕事をして分かったんですが、才能あるクリエイターは【自分を主張しないで、相手の主張を取り込みながらうまく協調し、クリエイトしていく】までの時間が早いんです。」
ウルトラシリーズに貫かれるクリエイター達の才能は、傍観者であった桜井氏にはそんな風に映ったんでしょうね。
その後桜井氏は安心して「弁当買出しのおばさん」に徹したとの事ですが(笑)。
撮影が進む内に、原口監督は出来上がってくる写真がご自分の演出意図と若干ズレていくのを自覚したそうです。
「視点がクールではなくなっている。」
これはカメラマン照内氏の感性とのズレから発生するものでした。ところが原口氏は、そのズレをプラスに解釈し、実にスムーズにコンセプトの修正を行ったそうです。
「プロップをそのまま撮ったとしても、そこにはエモーショナルなものが生まれる。」
「ネヴュラ」読者の方々は過去の記事でご覧になったと思いますが、今回の展示会のチラシに採用された「見返りウルトラマン(原口監督談)」の写真は、実は原口監督の絵コンテには無かったのだそうです。これは完全に照内カメラマンのアドリブカット。
このビジュアルを見た時、原口監督は非常にエモーショナルなものを感じたとの事。 そのカットが写真集のある種の方向性を決めたようで、事実写真集のラストページにも掲載されています。
「エキサイティングな仕事というのは、自分が思ってもいない作品が出来た時なんです。」と語る原口氏。
プロップを無機質な物体として捉えるコンセプトが、エモーショナルな作品に刺激を受けて変わっていく瞬間。
これは私も日々のお仕事でよく味わいます。
過去にもお話しましたが、ロケで「こんなカットが欲しい」と指示し、スタッフによって切り取られたカットをモニター越しに見た時、それが自分の思い描いていたカットと大幅に違う事はよくあります。それは必ずしも想像以上で無い事もありますが、そんな中私の想像をはるかに超えた名カットが生まれる事も多いのです。
その時味わうエキサイティングな感触はまた格別で。
「いい仕事」とはそういう、予定調和じゃない部分に生まれるんですね。
桜井氏はじめ、出来上がった写真集に寄せるコメントはいずれも「ウルトラプロップへの新しい視点」についてでした。
例えば桜井氏が一番気に入っていたカット「ゼットン星人の円盤」については、「正直こんなにくたびれたプロップなのに、その一部を切り取った写真を見た時、まるで真珠の首飾りのように美しい。ウルトラのプロップはこんなに美しいデザインなんだ」と再認識したとか。
他にも面白い裏話が展開される事45分。
規模も全く違い、比べる事さえ恐れ多いですが、作り手のはしくれの私としてはこういう「物を創り上げていく過程」のお話が非常に興味深い。
それも大好きな桜井「由利ちゃん」浩子さんが自分の言葉で、ちゃんと内容を伴うトークを展開している事が大変嬉しかったのでした。
「由利ちゃん」からわずか1メートルの至近距離でトークを楽しんでいた私は、この時間までにもかなり「由利ちゃん目線」を意識していました。私も制作者としてこの手のトークショーで「喋る側」のスタッフをよく経験しましたが、こういう時、しゃべる側と言うのは「目を合わせる人」に対して積極的になるんですよ。
いくら業界人とはいえ、大勢の人々の前で喋る時はそれなりに「指針となる人」を見つけるものです。自分のトークがどう受け取られているのか。「喋る自分と目を合わせる客」をある程度意識せざるを得ない。「自分の味方を増やそうとする」と言うか。
今回、私はその役に徹しました。ご本人にとっては迷惑だったでしょうが(笑)。
会場内を一周した彼女の視線は、必ず私に戻ってくるように心がけたのです。おかげでトークショー後半、彼女のトークの緩急が手に取るように分かりました。
聡明な方ですね。ゲストのトークをうまく引き出し、また脱線した時はうまく軌道修正する。
この手腕はおそらく、長年のウルトラ関係のイベントで培われたものでしょう。
さて、ここで案内スタッフから、待ちに待った一言が出ました。
「質問コーナーとしましょうか。」
・・・・続く(笑)。
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