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2007年1月21日 (日)

光に賭けたプライド

「お早うございます。」
ロケ日の朝。スタッフルームに現れたのは私より10歳ほど年配の照明スタッフでした。初対面です。

テレビ番組の場合、ロケ毎にスタッフ編成が異なる場合も多く、特に照明部門は別会社が担当している為、こうして初対面の方がいらっしゃる事も珍しくないのです。
挨拶も早々に、他のスタッフも交え今日の撮影内容についてのミーティング。ディレクターの私は、過去の作品をVTRで見せながら欲しい絵についてイメージを説明します。
説明が終わった時、その照明マンから質問がありました。
「監督、見せていただいたVTRでは、照明が比較的コントラストの強い、カチッとした絵になっていますね。台本の感じからするともう少し柔らかな、優しい絵にしてもいいとは思いますが、監督のお好みはどちらでしょう?」


「監督」なんて呼ばれる事に若干の照れを感じながらも、その時私は思いました。
「やるな、この人。」

番組の絵作りについてこういう質問を受けたのは初めてだったからです。確かに私は、絵のテイストは照明ではなく、カメラの特殊レンズやフォーカスで表現する事が好みなのかもしれません。
質問されて初めて気がつきました(笑)。
「そうですね。好みとしてはハイ・コントラストの方ですね。でも場面に応じて、やりやすい当て方をして下されば結構ですよ。」
こう答えた私に、彼は笑ってつぶやきました。
「そうですか。ありがとうございます。」


今日の「ネヴュラ」は、時々お話しする、私の普段の撮影現場の点描です。特に今回は「照明」に光を当ててみました。日曜日の記事としてはちょっと硬いかもしれませんが、「コイツ、いつもこんな事考えて仕事してるんだ」なんて笑っていただければ。

どんなお仕事でもそうですが、初対面のスタッフとお仕事をする時ってやはり「お互いの探りあい」になりますよね。年だけ重ねて相変わらず不勉強な私などは、自分の思いを素直に相手に伝える事しかできませんが、この日の照明マンのようにキャリアを重ねてくると、探りあいというより「相手のリクエストに応えられる引き出し」を沢山持っているのでしょう。
「この監督はこのテイストを求めているな。だったらこうしよう」
なんて。


一箇所目の撮影場所はいわゆるブライダルショップ。
最近改装したばかりでピカピカのお店です。ご想像通り、純白のウェディングドレスが店内狭しと展示され、撮り方も限定されてくる難しい場所でした。
さてここで、私はスタッフに指示します。
「白のドレスを撮って下さい。」
スタッフは、私のこの言葉に込められた様々な意味を汲み取って絵作りをするわけですね。

当然の事ながら、前述の照明マンは「白」というドレスをどう見せよう、と苦心するわけですね。なにしろ白ですから光の当て方ひとつでどんなイメージにも作れてしまう。
彼も最初は戸惑っていたようです。
今まで白のドレスに光を当てた事は何度もあったでしょうが、それを「私が望む絵」にする為の苦心ですね。

正直な所、カメラの映像を映し出すモニターテレビを見ながら最初は「ちょっと違うかな」なんて思っていました。いわゆる「ベタ明かり」という感じでドレスのディテールが出ていない。陰影が無いんですね。
このあたりの考えの違いを埋めるのがお互いのコミュニケーション。「もうちょっと影を出したいですねー」なんて言いながらワンカットずつ作り上げていく訳です。
でも長年のキャリアを持つ彼の事。すぐに理解してくれました。
この「理解してくれた瞬間」が良いんですよ。私の要望がモニター内に表現された瞬間、つくづく「このお仕事をしていて良かったー」と思いますね。
「テレビ屋冥利に尽きる」って感じでしょうか。


こんな感じで撮影は進んでいくんですが、ここで面白い現象が起こります。これは私もしばしば経験している事なので別段不思議ではないんですが。
わずか一日で、照明マンの腕が上がっていくんです(笑)。
これは、前述のコミュニケーションで出来上がった意志の疎通が生み出す賜物なんですが。


一箇所目、ブライダルショップの撮影も終わり、二箇所目はメガネ屋さんへ。
ご同業の方ならお分かりでしょうが、メガネや宝石などの「光物」って撮影が大変ですよね。というのはどう撮っても周りの風景が映りこんでしまう。本当ならスタジオへ持ち込んで、映りこみを完全に無くしてから撮るのがベストなんです。でも事情が許さず店内での撮影。
私もこのこういう物には時間を多めに割き、じっくり撮っていく事にしています。

今回のメガネには二つの難問が待っていました。
一つ目は「フレームに刻印された極小サイズのブランドロゴ」。

これは照明の陰影によって刻印部分に影を作り、ロゴを浮き立たせるという技が必要なんです。ところがお察しの通り、この技は刻印が小さければ小さいほど光の当て方が難しい上に、ただ当てればいいという物でもないんですよ。あくまで「自然光のようなさりげなさ」が重要なんです。「いかにも当てました」という絵は見ていて「恥ずかしい」。これは私もよく言います。「素人じゃないんだから」なんて(笑)。
ここでも照明マンのセンスが物を言います。
「半分ぐらい当てましょうか。」
この「半分ぐらい」の加減で、皆さんがパンフレットなどでご覧になる「おしゃれなメガネ」の絵が生まれるわけですね。


二つ目の難問は「金色のフレーム」。
純金フレームのメガネをアップで撮らなくてはいけないんです。

これも照明マン泣かせで。「金」という素材は明かり次第で高級感がまったく違ってくる。表面の艶とレンズ部分の反射次第で、物の価値が1万円にも100万円にも見えてしまうんです。
さあここで出たのが「カメラマンと照明マンのコラボレーション」。
今回私は、メガネの高級感を演出する為に「クロスフィルター」を発注しました。
これは光の形を加工するカメラのフィルターです。
昔、実写版「人造人間キカイダー」で、ジローがキカイダーに変身する時、肩のスイッチを押した所で光る十字の輝き、ああいう効果を出せるものなんです。
十字だから「クロスフィルター」という。


このクロスフィルターは光を変形させるものですから、いい場所に光が当たっていなければどうにもなりません。ここでうまく光を誘導するのが照明マンの腕。「いい感じ」というのは言葉では説明できないので、まさにセンスの世界なんですよね。何度も置き場所を移動させながら「いい位置」へ明かりを持ってきます。僅か1ミリの位置のずれが命取りになるデリケートな作業です。でもその甲斐あって、今回もベストショットが撮れました。
「どう?ここ?」なんて言いながら、小さな光を操る彼に、私は心底プロの意地を見たものです。


三箇所目はイタリアンレストラン。先日「ネヴュラ」でお話した、カプチーノの上に文字を描くお店です。
「カフェチョコラータ」と呼ばれるこのコーヒーは撮影が比較的簡単だったんですが、予期せぬ出来事は襲ってくるもので・・・
このお店、この日の撮影の数日後、大改装する予定だったんです。放送日は改装後。放送の内容的には、お店は改装後のように見せなければならない。
無理ですよねこんな事。お店が変わっちゃうんだから。
「そこをなんとか」とお店のマネージャーに頼み込まれて仕方なく、店内でもわずかに残った「改装しない場所」を沢山撮ってなんとか急場をしのぐ事にしたのですが、これがまた絵にならないところばっかりで。「暗い」「殺風景」「狭い」という三拍子(笑)。


「なんとかなりますでしょうか?」弱音を吐く私にスタッフはドンと胸を叩いてくれました。
さてどんなマジックを見せてくれるのか。
小粋に「レンズ!」なんてアシスタントに指示するカメラマン。
狭い場所を広く撮れる通称「オバケレンズ」の登場です。
こういう時のカメラマンはかっこいいですねー。
照明マンは、と見ると、なにやらお店の外へ出てセッティングしている様子。その直後モニターに映し出された絵を見て、私は思わず唸りました。
あの狭い店内の一角が別のお店のように広く見え、そして・・・

画角的に寂しさを感じる、テーブルから天井までの空間に、窓の外からいい角度で朝日が差し込んでいるのです。午後3時半なのに(笑)。
ライティングによって「朝」を演出した、照明マンの見事な技でした。


「これはすごい。私、何も言っていないのに。」
これが照明の仕事なんですねー。何年もこのお仕事を続けていると、時々こういう感動に出会えます。私のイメージをスタッフが上回った瞬間です。
「どうですか?」「いいですねー。」


収録後、照明機材の電球を交換している照明マンに私は言いました。
「すごい機材ですねー。」
ははは、と彼は笑っていましたが、その手元の動きには、いくつもの場数をこなしてきた「光に賭けたプライド」が感じられました。「どんな要求にも応えてみせる。」

たまに弱気になって、番組の貧弱な出来を制作環境のせいにしてしまう私は、彼のその笑顔に襟を正されるような思いでした。
これがあるからこのお仕事がやめられないんですね(笑)。

下らないお話を長々としてしまいました。なにか職場の朝のスピーチみたいでいやですね(笑)。でもどんなお仕事にもこういう「感動」があると思います。皆さんだって同じですよね。映画やドラマなどにはすっかり感力が衰えてしまった私ですが、かえってこういう現場での感動が増えたような気がします。いつもながら年のせいでしょうか(笑)。

お仕事のモチベーションって、こういう感動が糧になりますよね。吹けば飛ぶような小さな番組ですが、こういう感動をまた味わいたくて頑張るのかもしれません。
みんなそうですよ。ディレクターなんて(笑)。

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