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2007年1月24日 (水)

恐怖の「ヒッチ・フィールド」

久しぶりに訪れた都心の書店。
「ここのがいいんだよねー。」
手に取ったのはお気に入りの500円DVD数枚でした。

公開後50年以上の映画が版権切れとなり、同じ作品でも複数の会社から安く発売できるようになっている事は皆さんご存知の通り。
そうなると、自然にお好みのメーカーが出てしまうもので。ちょっとした機能の差が購買の決め手になったりしますね。同じメーカーで揃えればパッケージも統一できるし。

Photo_449 最近私はこの「KEEP」というメーカーのDVDがお気に入り。日本語、英語の字幕選択や字幕の有り無しが選択できる所がいいですね。パッケージデザインも好みです。

今回手に入れたのは大好きなアルフレッド・ヒッチコック監督の作品数点。昔はこういう作品はなかなか鑑賞の機会に恵まれなかったのですが、最近はわずか500円で手に入るんですからこんなにありがたいお話もありません。

で、「ロープ」。公開は1948年とあります。
勿論私はこの頃影も形もありませんでしたが、この作品、イギリスで名を馳せたヒッチコックがアメリカに渡り、連作を続けていた頃の実験作であった事は有名なお話で、私も20年ほど前、ビデオで初鑑賞しました。

鑑賞当時はヒッチ作品を絨毯爆撃(笑)していた時期でもあり、この作品の印象として全盛期の「サイコ」「鳥」「海外特派員」「見知らぬ乗客」ほどの絢爛さもなければ、イギリス時代の「第3逃亡者」「バルカン超特急」のような勢いも感じられない、いわゆる「意欲作」の一本に見えてしまったのでした。

今回、20余年ぶりにこの作品を手に取った理由、そのキーワードは「TMT」と呼ばれる撮影技法でした。「TMT」とはヒッチが実験的に採用したもので、「テン・ミニッツ・テイク」の略。これはこの作品のスタイルからはじき出されたもので、有名なお話ですがこの作品、上映時間81分がワンカットで撮られたように作られているのです。つまり作品内の時間経過と上映時間が同じ。シーンや場所が飛んでいないという意味です。
ヒッチはこのスタイルを貫く為に、当時の撮影カメラのマガジンに入るフィルムの最長、10分を一気に撮影し、それを繋いで全篇81分を作ったという訳です。

10分間ノーカット撮影。それがどういう意味を持つのか。
これに似たような感触を持つ作品が以前から話題になっていますよね。そう、TVドラマ「24」です。この作品も物語の経過と放送時間が同じ。途中を端折らない分、その空気感は「ロープ」と似た部分を持っています。

まあ「ロープ」は、実際にはヒッチが意図した通り完全にカットが繋がっている訳ではありませんでしたが、それでもエモーションの流れを断ち切らない演出は大変な緊張感を与えます。

私も以前鑑賞した記憶が薄れ、今回「あー、「24」と同じね。」なんて感じで新鮮に観る事ができました。ヒッチ初のカラー作品という事もあり、1948年制作ながらモノクロ作品ならではの身構えも必要なく(笑)観られたのです。
「ネヴュラ」読者でこの「ロープ」をご覧になった事がおありの方、どんな感想を持たれましたか?私は「三谷好喜、『古畑任三郎』はこれ観て書いたでしょう!」でした。
三谷好喜が舞台の世界からテレビに進出した事は皆さんご存知の通りですが、彼の得意とする「限定空間での濃密なやりとり」は、この「ロープ」の舞台設定と極めて近いのです。


まあ元々がこの作品、パトリック・ハミルトンの舞台脚本(戯曲ですね)を元に作られていますから場所が限定されるのも無理はありません。

開巻まもなく、ある高層アパートの一室で一人の青年が二人の友人にロープで絞殺されます。それだけでも充分ショッキング。
その絞殺直後、殺人者の一人ブランドン(ジョン・ドール)は共犯のフィリップ(ファーリー・グレンジャー)に、自らの信念を語ります。
「ある種の超越した人間は殺人さえ犯せる権利を持つ。それを完全に成し遂げえる事が選ばれた我々の特権なのだ。」
彼らは絞殺した友人の遺体を衣装箱に安置し、その上にクロスをかけてテーブルに見立てました。この部屋で今まさに、大勢のゲストを呼んだパーティーが開かれるのです。
部屋の中心に遺体が安置されている事など誰も知りません。
このパーティーを何の不都合も無く終わらせる事。これが二人にとっての「殺人芸術」の完成なのです・・・


魅力的な設定です。作品を観る観客は、殺人者二人の会話を最初に聞く事で「共犯」となります。今後パーティー会場で少しでも遺体入りテープルに近づこうとする者があれば、それだけで心臓が鷲掴みにされるような緊張を味わうのです。
これは最初から犯人を分からせるパターン。いわゆる「コロンボ型」の展開ですね。でもこういうストーリーは、進行中のサスペンスの作り方一つで傑作にも駄作にもなってしまう。でもこのあたりはさすがヒッチコック、おそろしく緊密な空間で観客の心を釘付けにします。

この作品を『古畑』と言ったのには訳があります。『古畑役』が居るのです。
犯人二人は大学の同級生。今日のパーティーには彼らの恩師、ルパート・キャデル教授(ジェームス・スチュワート)が呼ばれていました。殺人心理に極めて詳しい彼は、パーティー中の二人の様子、現れない犠牲者、そして不自然な現場の状況から犯行を推理して、恐ろしい犯行を導き出すのです。
どうです?『古畑』でしょ?


実はこの「ロープ」という作品、ヒッチコックの諸作品の中では「駄作」「失敗作」という評価が非常に高く、あまり有名な作品でもないんですね。確かにヒッチコックの持ち味は大胆な編集やトリッキーなカット割り、また独特のライティングやもはや「特撮」の域に達したカメラワークなどに特徴がありますが、私は今回再見してみて「ヒッチ・フィールド」とでも言うべき独特の空気感を味わいました。
別に大仰なBGMやものすごいカメラの動きがある訳でもないのに「うわ~っ」とでも唸りたくなるような緊張を観客に与える「場の空気」。ヒッチはどの作品にもそんな場面が盛り込まれていますが、この「ロープ」にもその興奮があります。

それは作品中盤。パーティー中、事情を知らないお手伝いの女性が、ゲストがまだ居る部屋の中で例の衣装箱の上を片付けるカット。この作品はほぼ全カット連続ですから、メインキャストのグループショットから振られたカメラは約2分間、テーブルの上の食事を片付け、クロスをたたむ女性「だけ」を捉えます。2分間ですよ。この間カメラは動きません。
この緊張。この息づまる空気。あまりにカメラが動かないので、このまま衣装箱が開けられ、死体が白日の下に晒されるのでは・・・と、観客は完全に犯人の立場になり、怯えてしまうのです。こういうある意味「放ったらかし」の長回しが、ヒッチは非常に巧い。
こういう空気感は後に「北北西に進路をとれ」(1959年)のとうもろこし畑のシーンや「鳥」(1963年)のジャングル・ジムのシーンなどに受け継がれ、「フレンジー」(1972年)で結実するのではと思います。
あの、空気さえ恐怖に震えるような独特の「緊張感あふれる場所」こそが、誰にも真似ができない「ヒッチ・フィールド」なのではないかと。

他にも言葉では表現できない「怖い寄り」など、凡百の監督が束になっても叶わない独特のヒッチ・スタイルが、この「ロープ」にも数多く現れています。
「ヒッチコック」と言うと最近では、必ず自身が作品中に顔を出すとか、仏頂面をしたふとっちょのおじさん、なんてイメージで語られる事が多いですが、私はそんな「演出のキレ」が現れた時こそまさに「ヒッチだ!」という思いに囚われてやまないのでした。

いろいろな文献にも書かれている通り、ヒッチはこの「ロープ」で、カットバックという自身の得意技をあえて封印して新しい境地を目指したのではと思います。この時ヒッチ49歳。この後、皆さんもよくご存知の絶頂期を迎える訳ですね。
人間、挑戦し続ける事が実を結ぶんだなーと改めて思います。
あの「サイコ」が61歳の時ですからねー。


ヒッチがフィルムに定着させた「ヒッチ・フィールド」は今だ健在。「ロープ」は公開後60年近く経った現在も、私に興奮を与えてくれました。
えっ?オチにひねりが無い?
巨匠の前には素直にならなきゃ(笑)。

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