眠れる刺客
昨夜、同好の先輩と電話で盛り上がっちゃって。
どんなきっかけからでも怪獣に話を持って行ってしまう悪い癖は、もう直りません(笑)。
そんな中で、当たり前の事ながら今更ながら感心した話題が。
「ウルトラQ」は何故、怪獣に魅力があるのでしょうか。
こんなお話になった時、ふと考えました。
「ウルトラQの怪獣って、退治されないものが多いですよね。」
(何故敬語かと言うと、電話の相手は先輩だからです。男の人だし)
そうなんですよ。「ウルトラマン」以降のシリーズは、主役がウルトラマンというヒーローだからして、どんなに強い怪獣も最後はウルトラマンに倒される。(もちろん例外もありますが)それがストーリーの基本ラインですから崩しようがない訳です。
ところが「ウルトラQ」だけはヒーロー不在の世界なので、そうした「決定的な解決策」が存在しないんですよ。
「そういえば」と考えてみますと確かに、退治されないお話は多い。ストーリー上一応の解決をみたというだけで、怪獣や宇宙人が完全に退治された、という例はあまりないんですね。 例えば第3話「宇宙からの贈りもの」に登場した、火星怪獣ナメゴン。このお話は最後に一の谷博士が、その弱点である塩水を大量生産するよう指示するところで終わります。ところがナメゴンが退治される場面はドラマには描かれていない。
まあ確かに、そこを描かなくても物語は理解できるので、かえって無いほうが余韻があっていいくらいなんですが。
これは「ウルトラマン」で言えば、ハヤタ隊員がウルトラマンに変身したところでお話が終わるようなものですね。
実に斬新な幕切れと言えます。
第5話「ペギラが来た!」第14話「東京氷河期」のベギラも、最後は南極の苔から採れる「ペギミンH」の効果で「撃退」されます。しかし、この怪獣もとどめを刺されてはいないんですね。
一時的に逃げていっただけで、また来襲の危険が無いとは言い切れない。
この「いつ来るかわからない」感覚は、ウルトラQ特有の感覚ですよね。「ペギミンHがある限り」というのは希望的観測に過ぎなくて。
非常に危うい、常に文明社会が危険に晒されている空気が醸し出されています。
他にも、例えば「五郎とゴロー」のゴローはまだイーリアン島に居るし、「鳥を見た」のラルゲユウスは飛び去ったまま。
「バルンガ」や、「2020年の挑戦」の、視聴者に不安感を与えるラストシーンは、「侵略者が退治されたかどうか分からない」感覚が非常な魅力となっていました。「海底原人ラゴン」のラゴンも海底に帰っていっただけです。
「206便消滅す」のトドラも、東京上空の異次元空間に潜んでいるんですよ。
「変身」のモルフォ蝶が生息するあの樹海に紛れ込んだら、今でも貴方は身長40メートルの巨人にならないとは限りません。
夜、帰りの通勤電車を間違えた貴方は、友野健二が待つあの世界に行かない保証はないのです。
これらのエピソードは、「物語に一応の区切りがついた」というだけで、事件が根本的に解決されたかどうかは「?」。
まさに「ウルトラQ」なのです。
確かに「ウルトラQ」はヒーロー不在の世界ですから、こういう結末はしごく自然なんですが、後のウルトラシリーズが辿った軌跡を考えると、かえって新鮮に映ってしまって。
結局「Q」の怪獣には、「人間には倒す事ができない」「まだ生きている」という絶対的な存在感があるのでしょうね。それが他のシリーズにはない、たまらない魅力となっているのかもしれません。
さて、ここまでのお話に一つ、登場していない「名獣」が居る事は、賢明な「ネヴュラ」読者ならすでにお気づきでしょう。
そうです。「Q」を語るとき、外せない怪獣です。 チルソニア星人が地球侵略の為に送り込んだロボット怪獣「ガラモン」。「ガラダマ」と呼ばれる隕石に内蔵され、地球各地に射ち込まれて、電子頭脳「チルソナイト」によって操作される宇宙ロボットです。
独特の形、動きのインパクトは絶大で、今だにあの「最期」がトラウマになった方も多いとか。
あの「ガラモン」ですが、実はこの侵略譚、明確なエンドを迎えていません。
ご記憶の方も多いでしょうが、2作あるガラモンストーリーの後編「ガラモンの逆襲」のラストシーンは、こんな場面でした。
ガラモンを操作する電子頭脳を遠隔操作で操っていたセミ人間「チルソニア星人」は、万城目以下メンバーの活躍で追い詰められます。電子頭脳の指令で世界中の都市を破壊するガラモン。チルソニア星人から電子頭脳を取り戻した科学陣は、ガラモンに破壊指令を発信する電子頭脳を「電波遮蔽シート」で包み込み、破壊指令を遮断します。
ほどなく動きを止めるガラモン。地球侵略に失敗したチルソニアの工作員は、同胞の手によって抹殺されます。
「悪魔のような宇宙人」の最期。
ラスト、電波監視所主任、平田昭彦によって語られるセリフがあります。
「人類の科学が、このチルソナイトによる電子頭脳を破壊する事ができない限り、危険はまだ続いてるんだ。」
お分かりでしょうか。
ガラモンに破壊指令を下す電子頭脳は一時的に電波を遮断されただけで、実は破壊されていないのです。
人類の科学では、チルソナイトに傷一つ付けることができません。劇中にもその描写がありました。これは何を意味するのか。
そうです。電波遮蔽シートが取り除かれれば、ガラモンはまた活動を開始するということなのです。
これは大変な脅威ではないでしょうか。
実に魅力的な設定ですね。世界観がしっかりしているから物語に広がりがあります。この「いつも世界が脅威に晒されている」感こそ、「Q」の真骨頂なのです。
この世界観から発想を広げると、こんな続編もできそうです。
おそらくガラモンの体表は、電子頭脳チルソナイトと同じ組成、硬度ではないかと。という事は、人類にはあのガラモンを解体できない。研究、解析も不可能な巨大なブラックボックスという訳ですね。しかも電子頭脳はまだ生きている。
おそらくガラモンによる世界襲撃の後、人類はガラモンの輸送だけを行い、一箇所に集めて封印する事ぐらいしかできないと思います。電子頭脳も幾重にも電波が遮断され、厳重に保管されるでしょう。
しかし、人間の行いに「絶対」なんて事がある訳がなく・・・
第一級の軍事機密と化した電子頭脳を制する者は、世界の破壊者となる。
世界の転覆を狙う狂信的な存在が、今でも世界中に居るではありませんか。
電子頭脳の争奪、解放を巡るサスペンス、スペクタクル!
ついに電子頭脳を解放した瞬間に展開する、全世界の阿鼻叫喚の図。そして、それを宇宙の彼方から冷ややかに見つめる、複眼の生物達。
「40年前、我々は地球に種を蒔いた。我々が直接手を下さなくても、愚かな地球の生物は自滅の道を辿っているではないか。」
あの40年前の侵略劇が、ガラモンと電子頭脳を地球に送り込む為の、チルソニア星人の罠だったとしたら・・・
いやー実にシニカル。ハードなお話で。
ガラモンは、人類が自らの愚かさを試される「試金石」という訳で。こんなストーリーなら引き込まれてしまいそうなんだけどなー。
タイトルはやっぱり今日のサブタイ「眠れる刺客」にしたいなー。
どうでしょうか皆さん。
でも、これを作品化するにはかなりの演技派俳優が必要ですねー。
できる人いるのかな。
読者諸兄から「こんなスタッフ・キャストで見たい」なんてご意見を頂くのも楽しいですね。
最近「ネヴュラ」も、実力派のコメンテーターが増えている事ですし。おバカなストーリーもお話する甲斐があります。
こういう風に、続編を考えるだけの世界観の幅があるのが「ウルトラQ」の魅力ってもので。やっぱり名作はどこまでも楽しめるものですね。
私も一生に一度ぐらい、名作と呼ばれる作品を作ってみたいものですが。
こればっかりは才能なくて(超号泣)。
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こんばんわ。
ウルトラQでは
今回出てきたタイトル以外では
「地底超特急西へ」が好きだったりします。
あの結末は「2001年宇宙の旅」も足元に及ばないかと
(かなり言い過ぎですね)。
「1/8計画」も、増え過ぎた人口を宇宙に移民させるのではなく、
縮小しようというアイデアや、
ただの夢落ちじゃない所がナイスでした。
更に円谷特撮が炸裂する巨大化した万城目と一平(逆だよ)!
「Q」の素晴しい所は、それら特撮技術と魅力的なキャラクター、
そして、書かれている通り
結末を映像化せず正に「空想」させる所なんですね。
オタクイーンさんの空想プロックも中々面白いですよ。
これを具体化すると、
いろんなシガラミが付いて来て大変なんですけどね(涙)。
投稿: ジャリゴン | 2006年11月27日 (月) 00時10分
ジャリゴン様 コメントありがとうございました。
「地底超特急西へ」も、実にスリリングなエピソードでしたね。
ウルトラQ版「新幹線大爆破」的な(笑)。
「1/8計画」も、あのラストのナレーションが物語に広がりと余韻を与える、見事なストーリーと思います。
やはり当時のスタッフが目指した「Q」の方向性は、怪獣出現にもう一つ「何か」を加えたものだったのでしょう。
特撮の高度なクオリティーに支えられ、珠玉の作品が揃った「Q」の全てのエピソードは、私にとって発想の翼を広げる糸口となっています。「あの怪獣は今どこに」「あの物語はこう続くのでは」と、いつも楽しく思いを馳せる事ができる、まさに「空想特撮シリーズ」なんでしょうね。
ジャリゴンさん作「アフターQ」も一度うかがってみたいものです。
こういうのって楽しいですよね。映像化には困難が付き物の過激なストーリーも、考えるだけなら・・・。
無知でおバカな私の妄想はちょっと出来が悪いですが(泣)。
投稿: オタクイーン | 2006年11月27日 (月) 13時38分