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2006年10月 5日 (木)

蝿の羽音は殺しのサイン

不可能殺人!
空飛ぶ密室と化した旅客機の機内で起こった惨劇。

死因は背中を刃物で一突き。被害者の顔は恐怖に歪み、無抵抗で事切れていた。
被害者のそばで聞こえた、蝿の飛ぶようなかすかな羽音が意味するものは?
謎が謎を呼ぶ、恐怖のストーリー・・・

「透明人間と蝿男」(1957年大映 村山三男監督)。特撮映画好きの方には有名な作品ですよね。私も以前、この手の作品を追いかけていた時期に入手したものです。
再見してみて久しぶりに堪能したので、今日はこの作品の事をちょっと書いてみましょう。
キンチョール片手にご覧下さい。

海外の透明人間映画の評判と、「ゴジラ」で開花した特撮技術を駆使する企画として、日本でも透明人間作品が数多く公開されたこの時期。大映でも「透明人間現わる」(1949年 安達伸生監督)に続く第二弾として制作された「透明人間と蝿男」。
「蝿男」というネーミングはかのアメリカ映画「蠅男の恐怖」(1958年日本公開 カート・ニューマン監督)を思い起こさせますが、なんとこの作品の方が一年早い!凄い事ですよね。(ちなみに「蠅男の恐怖」は、本国での制作は1956年ですが日本未公開でした)
オリジナルに先駆ける事一年。本家アメリカより早く、SFキャラクター夢の共演という訳です。
言わば「エイリアンVSプレデター」みたいなものでしょうか(笑)。

ところがこの「蝿男」、本家アメリカのネーミングと被っちゃっただけで、実はまったくの別物。しかしながら、日本のクリエイターが頭をひねって作り出した、なかなかのものなんですよ。

あまりネタバレしすぎると怒られそうなので、今日はこの作品の設定、見所、そしていつもの「私見」を聞いていただきましょう。

まずこの「蝿男」という存在は、第二次大戦末期、日本軍の化学研究部隊がある孤島で開発した一種の兵器を使った人間達の総称。
兵器はアンプルに入った液体で、空気に触れると煙状に変化します。その煙を吸い込んだ人間は蝿ほどの大きさに変化、さらに飛行能力まで有します。
冒頭の殺人はこの兵器を使った物。黒幕の男はある目的の為にこの兵器を持ち出し、手下を使って、兵器開発に関係のある人間を次々と手にかけていた、という訳です。

冒頭の殺人に続き、次々と起こる密室殺人。絶対不可能な状況の中で起きる不可解な惨劇は、通気口などから進入し、一瞬の元にターゲットを仕留める蝿男の仕業なのです。
殺人現場を目撃した刑事が耳にする、蝿男が飛ぶときの羽音が一層恐怖を感じさせます。
「蝿の羽音は惨劇の前奏曲」と言えますね。


ここで一つの疑問が浮かびます。黒幕の男は何故自分自身で手を下さないのか。
ここに、この兵器の恐るべき秘密があるのです。

実はこの兵器には常習性があり、使用を止めると麻薬患者のごとき禁断症状が起るという代物。しかも副作用として性格は残忍性を増し、不意に起こる殺人衝動により、本来のターゲット以外の人間にまで手を下してしまうのです。
この手先の男は、クラブのダンサーである自分の情婦に近づく男を次々に惨殺、さらには情婦本人にまで「裏切った」という妄想を抱き、殺してしまいます。
事実、アンプルを求めて黒幕に脅しをかける男の姿は麻薬患者のそれに近く、狂気を孕んでいました。

黒幕が自らこの兵器を使わなかったのは、この常習性と副作用を知っていたからなのです。

事件の解決がつかないまま捜査を続ける主人公の刑事。そんなある日、彼は親友の科学者から研究所に招待されます。そこで彼は不思議な実験を見る事に。
宇宙線の研究途中に偶然発見した特殊な光線の実験。

「光には一定の波長があり、人間の目にはその波長に合った光だけが見える。ある物体に、人間の目に見えない波長の光を当てれば、その物体は見えなくなる。」

そうです。「透明光線」の原理です。

色めき立つ主人公。ところが学者達にとって、この光線は研究途中の偶然の発見に過ぎず、どう扱っていいか考えあぐねている訳です。
「尾行や張り込みにもってこい」なんて冗談めかして言うメンバー達。
この光線がその後のストーリーにどう関わってくるかは、皆さんのご想像通りです。
「ゴジラ」(1954年東宝 本多猪四郎監督)に登場した「オキシジェン・デストロイヤー」と同じく、こうした「研究途上の副産物」というアイデアは、ストーリーにリアリティーを持たせる設定ですね。私は大好き。
またこの研究室のセットも存分に作りこまれていて、東宝作品とはまた違ったリアリティーを観客に感じさせて素敵。

世間を騒がせる密室殺人は続きます。業を煮やす主人公。再度研究室を訪れた彼ですが、透明光線の研究は暗礁に乗り上げていました。
この光線は生物に当てても透明化出来ますが、肝心の「復元」が出来ないのです。

生体実験として透明光線を浴びたウサギは、研究中の復元光線を浴びると数分の内に事切れてしまいます。体中にガンが発生してしまうのです。
ここに、「透明人間と蝿男」という作品が持つダークな主張があります。

人間を縮小する兵器が持つ麻薬のような「常習性」「副作用」。
透明光線が持つ病的な「ガン」そして「復元不可」。
科学という言葉に秘められた「人間の欲望を可能にする『陽』の部分」と、人類の驚異として立ち塞がるガンや麻薬といった副作用『陰』の部分を、この作品は均等に描いているのです。

これは「明るく楽しい」を謳い文句にした東宝の特撮映画が意識的に配した部分でしょう。興味深いところですね。

また海外でも、過去の作品から近作の「インビジブル」「ザ・フライ」に至るまで、透明人間や蝿男の作品には、そうした科学の暗黒面を描写したストーリーが多いようです。「透明人間と蝿男」に流れるどこか乾いた空気は、そんな海外作品のテイストを感じさせてちょっと面白いですね。

さて皆さん。この設定で、「透明人間と蝿男」のストーリーを想像できるでしょうか?
私は今日数年ぶりの再見で、細かいところを忘れていた為、大変楽しめました。というのはこの作品、先が読めない(笑)。
確かにタイトルは「透明人間と蝿男」なんですが、この手の作品の定石を破る意外な展開の連続なので、おそらく皆さんの想像を裏切るストーリーになるのではと思います。
また演出のスタイルは非常にモダン。監督の村山三男さんについてここには資料がないので分かりませんが、かなりアクション、サスペンス演出に長けた職人さんとお見受けしました。
観客のエモーションを喚起させる、視点を駆使した飽きさせないカット割、テンポの早い展開は、現在の映画より楽しめるかも。

こういう作品に付き物の特撮。なにしろ今から50年近く前の作品ですから推して知るべしですが、「ウルトラQ」でもその手腕を存分に揮った的場徹の仕事はなかなかお見事。特に国電の爆破カットなど、私は目を疑いました(笑)。

この演出スタイルは、大映という会社が持つ社風ではないかとも思います。
狭い空間で、視点を縦横無尽に変化させて細かく刻むカットの流れは、セットの広さを存分に感じさせながらロングショットで押す東宝作品とは明らかに違う潮流。

ある意味新東宝作品に通じるいい意味での目まぐるしさも、こういった題材の作品には向いているような気がして好感が持てます。

そしてもう一つ、見事な照明効果も見逃せません。
この作品、撮影はおそらく夏だったと思いますが、その強い光と影のコントラストは、あの黒澤明監督の「野良犬」(1949年新東宝)を思い起こさせるもの。また後半のナイトシーンも光と闇のバランスが美しく、一種独特の世界を形作っています。

照明の米山勇・佐藤寛のお二人もまた職人だったんでしょうね。モノクロ作品ならではのすばらしいお仕事です。

今日も長々とお付き合い頂いてありがとうございました。
冒頭にも書きましたが特撮好きの方には有名なこの作品、それ以外の方には知られていないんですよね(笑)。
お笑いっぽいタイトルに惑わされると素通りしてしまうこういう作品(笑)。機会があれば一度是非ご覧下さい。

最近、私の周りではあまり蝿を見かけなくなりました。
こういう作品を見ると、蝿の羽音が懐かしく思えてくるから不思議です。
まあ、刺されちゃうのは嫌だけど(笑)。

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今僕は、「最新宇宙論と天文学を楽しむ本」という本を読んでいます。 宇宙的なもの好 [続きを読む]

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