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2006年9月15日 (金)

蒸気の男 情鬼の女

「ネヴュラ」の男性読者で、スーツの内ポケットに手を入れる時、ちょっと口元を歪めて「ニヤリ」と笑う癖のある方。
今日はそんな貴方にお贈りします。

Photo_184 さて、今日のお話は「ガス人間第1号」。

1960年公開の東宝映画「変身人間シリーズ」の一篇です。「ゴジラ」以来の、本多猪四郎監督、円谷英二特技監督の名コンビ。
ファンの間ではこの作品が、変身人間シリーズの最高傑作と呼ばれていますね。

私も作品の出来としては、この「ガス人間」が一番と思います。(好みとはまた別ですが)
この作品、国内よりは海外で大変人気があるそうで、主演の土屋嘉男さんはさまざまな国で「ガス人間」の恩恵にあずかり、サイン攻めやVIP待遇などのいい目にあったとか。楽しいお話ですね。

何故か国内ではファン以外あまり知られていないこの作品。例によってさわりだけちょっとお話しましょう。
Photo_179 鉄壁の防御を誇る銀行の金庫から続々と奪われる多額の現金。捜査を続ける警察の岡本(三橋達也)は、日本舞踊の家元、春日藤千代(八千草薫)に行き当たります。
弟子に去られ、藤千代一人残った春日流は没落の一途を辿っていましたが、最近不自然なほど金回りが良くなり、去っていった弟子を買収して発表会を開くなど、怪しげな動きを見せていたのです。藤千代と強盗の関係は?岡本らは藤千代を逮捕、拘留という手段に出ます。

新たな予告強盗が勃発。ついに逮捕した犯人はつじつまの合わない証言を繰り返します。
連続強盗犯を別人と睨んだ岡本の前に「自分が真犯人」と現れた男、水野(土屋嘉男)。彼は強盗の手口を再現してみせると関係者を集めます。岡田らの眼前に展開する、水野の恐るべき手口とは!

Photo_180 こんな感じでしょうか。皆さんのご想像通り、金庫室の鉄格子の前で「スーツに手を入れ、ニヤリと笑った」水野の体は、見る見るガス状に変化、見張りの銀行員の「首を絞め」(ここは是非見て欲しいですね)現金を悠々と掴み取り、あまつさえその場に居た警官まで犠牲にするのでした。
「ガス人間水野」の登場です。

ここまてでドラマは43分経過しています。この作品は91分ですから、実に全篇の半分近くは前述の「犯罪ドラマ」が展開されるわけです。確かにそれまでの間、思わせぶりな描写はあるものの、最初から大げさな見せ場を持ってこないあたり、本多監督の地に足のついた演出が光る一篇です。

Photo_181 ここから先は、実際に作品をご覧下さい。私の下手な説明で、作品の高貴な香りを濁してしまってはいけないので。ただ、この作品の場合、「ガス人間・水野」の立場は非常に微妙。
ネタバレで申し訳ありませんが、ある人体実験による突然変異で、体をガス状に変化させる能力を手に入れた水野は、藤千代という女性の為に自らの能力を使い、強盗を繰り返して彼女にお金を与え続ける訳です。

Photo_183 いろいろな研究書などには、このストーリーを「科学の犠牲となった男の純愛」と書いています。
人里離れた地に住む、没落寸前の日本舞踊家元。凛とした美しさがどこか神話の世界の住人を思わせる藤千代。彼女を現実に縛り付ける、お金のかかる発表会。こんな女性に惚れてしまったら、男性なら誰でも援助したくなるのでは?それこそ水野のように、いくらでもお金を手にすることが可能な能力が身につけばなおさらの事。

確かに一面では、「ゆがんだ純愛」として捉える事もできます。作品中で水野は藤千代の事を「お金のかかる人」と言っていますし。ガス人間の自分でなければとても付き合っていけない、というニュアンスも漂わせています。
でも最近久しぶりに再見してみて、私はそれたけではない「深み」を、この作品に感じるのです。

未見の方の為に詳しくはお話しませんが(笑)、水野がガス人間になる経緯は、言わば「狂気の科学者による実験の失敗」なんですよ。
つまりガス化する能力は、狙ったものじゃなくてたまたま身についた物。不可抗力なんですよね。だから人間体で居続けられる保証なんてどこにもない。

これもある本に書かれていたことですが、
「水野は自分がいつガス化して空に散ってしまうか分からない恐怖と闘いながら」
ガス人間として生きている訳です。
この視点がずっと頭の中に残っていまして。

水野は無敵の超能力者でありながら、言わば死の恐怖と隣り合わせなんです。
こういう立場に置かれた人間は、おそらく生殺し状態。

普通の人間以上に「生」への執着が強いんではないかと思うんですよね。
これを考えたとき、この「ガス人間第1号」という作品の、もう一つのテーマが見えてきたような気がして。

おそらく水野は、藤千代へのゆがんだ愛を通して、自分が生きている実感を味わいたかったんではないか、なんて思うんですよ。
「ガス化して何でも手に入るようになったら、何も欲しくなくなった」なんてうそぶく彼も、岡本警部に「人間じゃないんだから、藤千代を愛する資格も無いな」なんて意味の事を言われた途端、狼狽の色を隠せませんでした。
愛する人が居る。その人の為になんでもする。これが彼にとっての「生きている証」だったような気がするんです。
「自分と生を繋ぐ、たった一本の糸」と言うんでしょうか。

今、文字通り「煙のように」消えうせてしまうかもしれない自分という存在を、水野は最後まで感じていたかったのでしょうね。この視点で「ガス人間」を見てみると、この作品は恐ろしいほどの悲劇に感じられちゃって。
「何でもできるけどいつ消えるかわからない。」こんな主人公の設定のSFが、46年も前に作られていたとは。いやービックリ。

Photo_182 そして、水野の「証」として選ばれた藤千代も、おそらく浮世と常世の淵を行き来する存在なんですよ。
あの幽玄の舞に込められた思いは、俗人には計り知れないものがある筈。

水野の思いを受け止めるだけの器が、彼女にはあったんじゃ?
(今日も私見が暴走気味で(笑)。

物語のラスト。これも伏せますが(イジワルですねー(笑)。ご覧になった方は思い出してください)藤千代が取った行動。その前に彼女は自分の心情を、「どうにもならないんです」と言っています。

死の淵に立ち、生を全うしようとする男と、
常世に舞い、男の思いを受け入れる女の「情」。

これは深い!恋愛を超えた「生と死」の問題に取り組む作品ですよこれは。
ただラストシーン、「あの時」の藤千代にはおそらく、情と表裏一体の感情があったのでしょう。
その感情とは。
おそらく発表会の演目、そして今日のサブタイトルが物語っています。

あーあ。今日も偏ってますねー。
「常軌を逸してる」なんて言わないでね(笑)。

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「東宝特撮クラシック」カテゴリの記事

コメント

オタクイーンさん、今晩は。 ポン太です。(*^^*)
先日やっと見ましたよ。「ガス人間第1号」。

> 主演の土屋嘉男さんは・・・VIP待遇などのいい目にあったとか。
あれだけのハンサムボーイなら当然というか、さぞオモテになったのでしょうね(笑)。
作品中、図書館の事務員役で彼が登場したとき、そのあまりのオーラにすぐピンときました。「この人がガス人間だな」と・・・。

> 「人間じゃないんだから、藤千代を愛する資格も無いな」売り言葉に買い言葉なんでしょうが・・・普通に言えば 確かにひどい言葉ですが、・・・「しかし、それは彼女が決めること」この言葉が、私には記憶に残る名セリフで、この作品のキーワードの一つだと思いました。

そして 私もブログに書きましたが、オタクイーンさんのおっしゃる通り、藤千代の演目の“情鬼”・・・いろんな意味でこの「じょうき」という言葉、この作品を象徴するキーワードになっていましたね。

それにしても「蒸気の男 情鬼の女」とは・・・この作品を見た人なら誰もが膝を打つ、みごとなタイトルですね!

ポン太様 コメントありがとうございました。
「ガス人間第1号」は、1980年代に東宝特撮が再評価された頃、病こうこうだった私が追い求めた作品でした。
当時は今ほど頻繁にソフト化がされなかった時期で、地方でテレビ放送されたズタズタのトリミング版を見るのが精一杯。
画面がトリミングされたおかげで、タイトルが「ス人間第1」になっていたのも懐かしい思い出です。

評価が高い作品ですが、私はこの「文学的な香り」がちょっと苦手で。記事のようにひねくれた違う見方をしてしまいます。
いろいろな見方があっていいのでは、とは言うものの、「じょうき」というキーワードは皆さんもおっしゃる通り不変。
タイトルのようなダジャレをつい言ってしまいたくなる浅知恵をお笑い下さい(汗)。

こんばんは!
藤千代に関しては、その通りだと思いますが、
水野の死に対する恐怖感、あたしは高慢さしか感じられませんでした。
しかしまぁ、深い愛のお話ですね。

中毒猫姫様 コメント&TBありがとうございました。
「ガス人間」に関しては、色々な方のブログで異なった感想、解析がなされている事からも、一筋縄では行かない深さを感じさせますね。
VHS、LD、DVDと、合計50回は下らないであろう鑑賞回数を持つ私にしても、再見するたびに新しい見方、発見がある作品です。
それが「ひいき目」の仕業としても、それはそれでいいのではと。
作品は色々な見方が出来るから楽しいですね。
それぞれが持つ感想に「正解」はありませんから。

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