蒼き流星ウルトラセブン
「天気予報はここでやるんだっけ?」
アナウンサーの声が響く報道スタジオ。そうです。私は今日、スタジオ収録のお仕事。
キャスターの前で「キュー」を振る、フロアディレクターの役目です。
アナウンサーというのは収録の合間はなにかとヒマなもので、準備や副調整室とのやりとりに追われる私を尻目に、普段の自分の「ベーススタジオ」以外で訪れた場所をあちこち見回って遊んでいます。
彼の興味を引いたのは、俗に言う「お天気お姉さん」のテリトリー、「クロマキーボード」の前。皆さんもニュースでご覧になった事がありますよね。
天気図の前で気象予報士が「明日も残暑が厳しいです」なんてやっている場所です。
あれ、画面上は人の後ろに天気図が映ってますが、スタジオでは巨大な青いボードの前に人が立って、ボードを指し示しているだけなんですよ。ひょっとしてスタジオ見学などで体験された方もいらっしゃるかもしれませんね。
あの「クロマキーボード」って、スタジオ上では本当にそっけない物なんですけど、画面で見ると天気図が全面に映って、実に効果的に見えますよね。
実際の所、スタジオで見られる初歩的な「特撮」として、私などはいろんな使い道を夢想しては、一人悦に入っています。
以前一度、こうした「クロマキーボード」で、「特撮」に挑戦した事がありました。
それはいわゆる「オリジナルビデオ」で、安藤広重の有名な浮世絵「東海道五十三次」の一枚をボードに映し出して、中から江戸時代の旅人に扮した俳優が抜け出てくるという、かなり大掛かりかつ本格的なものでした。
実際副調整室で見ていると、静止画だった浮世絵の旅人がオーバーラップして俳優に変わった瞬間、まるで「怪奇大作戦・殺人回路」のダイアナばりの感動を覚えたものです。
前ふりはこれくらいにしましょうか。
今日の本題は「ウルトラセブン」。
1967年、TBS空想特撮シリーズの第3弾として、日曜夜7時の「タケダアワー」に登場したSFヒーローです。
「ウルトラシリーズ最高傑作」との呼び声も高いこの作品。「ネヴュラ」読者の皆さんならもう既にDVDに穴の開く程ご覧になっていますよね。識者による分析、評論のたぐいも多いので、おバカな私などが語れる事などたかが知れていますが。
文献をひもといていて、私が感銘を受けた事実があります。
ウルトラセブンの体の色についてです。
「成田亨氏のデザイン画では当初、セブンの体色は青だった」という事実。
いろいろな所で書かれているので皆さんもご存知とは思いますが、1967年、「ウルトラマン」放映終了後、「タケダアワー」を東映制作の「キャプテンウルトラ」に明け渡した円谷プロ制作陣は、新企画を立てる上で、「ウルトラマン」との差別化を図ったと言われます。
「ウルトラマン」との関連性が全く無い、新しい作品を模索していたのでしょう。
主人公の設定も「M78星雲人」という関連のみで、体のデザインもウルトラマンとかけ離れた「甲冑を纏った宇宙人」のイメージ。
一目で「これはウルトラマンと別人だ」と認識させる差別化は、やはり前述の「体色」でしょうね。
ウルトラマンの「銀と赤」に対し、「青」というカラーリングの変化。
その「青」が。現在私達が見る事ができる「赤」に、何故変わってしまったのでしょうか。
冒頭でお話した「クロマキーボード」。これはビデオの世界での呼び名なんですが、フィルムの世界でも良く似た方式があります。「ブルーバック合成」という物です。よく文献に出ていますよね。
この「ブルーバック合成」に弱点がある事はご存知ですか?
これはビデオと同じく、青いバックの前で撮影した映像と、他で撮影した映像を編集で合成する方式。青いバックの部分に、他の映像がはめ込まれる訳ですが、青い部分全てに映像がはまってしまうんです。
つまり、青バックの前で撮影される映像が青いと、そこまで他の映像がはめこまれてしまう。
ウルトラセブンの体色が青でなくなったのは、この為だったのです。
今見られるあの、セブンの赤い部分が青だったら。ブルーバックの前に立ったら「生首」ですよ「生首」。ガブラもビックリ(笑)。そんな技術的な理由でセブンの体色は赤くなったんですね。いまでこそグリーンバックやCG合成など、そんな事を気にせず合成ができるテクノロジーは続々と開発されていますが、当時の技術では体色を変更するしか方法が無かったのでしょう。
「ウルトラセブンの色が青だったら。」
セブン以降のウルトラシリーズの変遷を考えると、このやむをえない変更は色々な想像を生みますよね。
まず、「マン」との差別化がより徹底した事で、後の「ウルトラ兄弟」の設定が作られたかどうか。「帰ってきたウルトラマン」制作の可能性も低くなったような。
「マン」「セブン」と、まったく違う方向性を貫いた事により、1971年当時、より新しい方向性を目指した「ウルトラシリーズ」が生まれたかもしれないのです。
(個人的には「ウルトラマンティガ(1996年)がその位置にあると思いますが)
妄想大好きな私は、こんな部分にも「違う未来」を夢見てしまうのですが(笑)。
でも、1970年代に初めて「ウルトラ」に触れた方々には、やはりセブンの体色は赤でよかったのかもしれませんね。色でマン、セブンに若干の関連性を持たせたおかげで、その後の「兄弟」たちの活躍がスムーズに展開していった訳ですから。
後の「平成ウルトラ」の第三弾、「ウルトラマンガイア」(1998年)の「アグル」あたりが「蒼いセブン」のイメージでしょうか。こう考えると、つくづく物事ってちょっとした偶然でいろんな方向へ転がっていく物だと思いますね。
「偶然」と言えば今日、冒頭のお仕事の帰りに局のエレペーターで偶然、兵頭ゆきと乗り合わせました。お子さん連れでした。この後また、アメリカへ帰るんでしょうか。
いや別にただ、それだけの事なんですけどね(笑)。
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コメント
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へーっですね。そんなことがあったんですか?生首ウルトラマン・・・Qの初期設定のWOOみたいですよね。それはそれで、観たかったかも。(笑)テイガの紫っぽい青に変身する場面は、昭和おじさんをびっくりさせてくれましたけど、ずっと前にその可能性があったんですね。・・・・おもしろいです。(笑)
投稿: hiyoko | 2006年8月25日 (金) 02時10分
hiyoko様 コメントありがとうございました。
「ティガ」の3タイプチェンジは当時斬新でしたよね。あれがきっかけで、「ヒーローのフォルムが変わる」という設定が広がっていったような気がします。
3タイプ+グリッターくらいならまだ見分けがつくんですが、それ以上のバリエーションはとてもついて行けなくて・・・
こうした流れももちょっとした「きっかけ」による広がりなんでしょうね。今後、ヒーローのフォルムはどんな変化を見せるのでしょうか。エポックとなる作品の登場を期待したいものですね。
投稿: オタクイーン | 2006年8月25日 (金) 07時29分
こんにちは、オタクイーンさん。
今日はオタクイーンさんに「ウルトラマンの顔」について教えてほしいことがあって、このコメント欄を使わせていただきます。
実は私、初代のウルトラマンの雰囲気そのものがとても好きです。
ちょっと肩に力が入ったように体を小さく前屈みにして相手と対峙する姿は、プロレスなんかのイメージでしょうか?相手を投げ飛ばすときのかけ声「デヤーッ」なんかも最高!
そしてもう一つ、あのどこか年季の入ったような、荒削りな顔。(うちの嫁に言わせるとボコボコの顔だそうです・笑)
その顔がとても渋くてかっこよかったのに、なぜか途中で つるつるで綺麗なすべすべお肌になっちゃった。上下のバランスもなんだか変だ。
どうしてこんな事になってしまったのでしょうか?
こんなこと もしかしたら「ウルトラマンファンなら誰でも知ってる」事かもしれませんが、教えていただけるとありがたいです。
宜しくお願いします。 by ポン太
投稿: ポン太 | 2006年9月13日 (水) 15時40分
ポン太様 ご質問ありがとうございました。
この手の質問は、私にとってど真ん中ストレートなテリトリーですので大歓迎です(笑)。
実は、初代ウルトラマンの顔は全39話を通じて3つのタイプがあるのです。ファンの間では便宜上A・B・Cタイプという分類をしていますが。
Aタイプというのは、ポン太さんがおっしゃる通りの「渋くてかっこよかった」顔。これは、当初ウルトラマンが口を動かして喋る、という設定があった為、顔そのものをラテックス(ゴムの一種)で成型し、口が動くように考えた、スタッフ苦心の作だったようです。
また、ウルトラマンの設定の前身「レッドマン」というヒーローの顔面デザインが、ウルトラマンとはかなりかけ離れた「宇宙生物顔」(非常にデコボコの多い顔)だった為、そのイメージを引き継いだとも言われています。
このラテックスという素材はゴムの為、確かに口は動かしやすいのですが、硬質感(ツルリとした感じですね)と、保存面に難点がありました。奥様がおっしゃるように「ボコボコの顔」で、しかも撮影を続ける上で、ライトの熱などで溶けたり、劣化していってしまうのです。
そうした現場上の問題の解決、またイメージ上の変更を目的と推察しますが、Bタイプと呼ばれるマスクが作られました。これは素材をラテックスからFRP(強化プラスチック)に変えたもので、今のウルトラマンのイメージに近いものでした。ツルリとした硬質感は申し分なく、口も動かなくなった分しっかりした形にモールドされた、端正な顔立ちとなったのです。この変更時、体のボリュームやプロポーションも見直しが図られ、今見られるマッシブな「ウルトラマン体型」が完成したと言っていいでしょう。
ところが、ウルトラマンの進化はさらに続きます(笑)。Bタイプを元に、さらに改良を加えたマスクが作られました。これが、今私達が最も目にする機会の多い「Cタイプマスク」です。
このマスクもFRPで成型されている為、Bタイプと大変よく似た印象です。二つの一番大きな違いは「口の形」ですね。Bタイプに比べ、Cタイプは口がやや横広がりなのです。AとBの違いは物凄くはっきりわかるのですが、BとCの違いは多少注意しないと分かりにくいかもしれません。第何話からマスクが変わったのか注意しながら見るのも楽しいかもしれませんね(笑)。
こうした、スタッフの試行錯誤が結集したウルトラマンには、まだまだ沢山の見所があります。ポン太さんがおっしゃる通り、「どのタイプの顔が好き」なんて盛り上がれるのも、ウルトラマンの楽しい所ですね(笑)。
つたない知識ですのでこの程度しかお話できませんが、よろしいでしょうか?こんな答えでよければ、またいつでもご質問下さい。
長文で申し訳ありませんでした。
投稿: オタクイーン | 2006年9月13日 (水) 20時00分
オタクイーンさん、とっても詳細なお返事 ありがとうございました。(^o^)ノ
いま嫁は、秋祭りの輪踊りの練習に出かけてます。(ローカルですね~ 笑)
帰ってきたら早速話して聞かせようと思います(笑)。いや、このブログ見せたほうがはやいですね!
またよろしくお願いします。
投稿: ポン太 | 2006年9月13日 (水) 21時28分