監督からの招待状
「・・・この感激!この喜び!ついに勝ちました!ゴジラがそのなきがらを海底深く没し去るのをこの目ではっきりと認めました!」
1954年。ラジオが伝えるゴジラ撃滅の実況に沸き返る、避難所の人たち。カメラはその様子をゆっくりズームアウト。避難所から外へ。(ヒッチコックばりにカメラだけで。)ゴジラに蹂躙された町をロングショットで捉えるカメラ。その町がゆっくりオーバーラップして、1984年現在、繁栄する超高層ビル街へ。
その映像をバックにタイトル「ゴジラ」・・・
「こんなシーンあったか?」とお考えの貴方、ごめんなさい。ありません(笑)。
これは、1984年の復活ゴジラ鑑賞後に、私が勝手に想像した「復活ゴジラ」のオープニングです。このタイトルの後、まるで戦後の復興のように、町の再建に奮闘する政府や立ち直っていく都市の様子が「モノクロの写真で」描かれながら、キャスト・スタッフの字幕が流れて・・・と、考えたんですが。
84ゴジラはこれくらい重厚な描き方をして欲しかったなー、なんて願望を含めた妄想を、当時膨らませていたものでした。
好みもありますが、私は映画、テレビ問わず、タイトル前に一つシーンがある、いわゆる「掴み」を持つ作品が好きなんですよ。
確かにいきなりタイトル、というのも悪くはないんですが、作品世界へ私達を引きずり込んでいってくれる「監督からの招待状」的な演出スタイルがお好みで。「アバンタイトル」と呼ばれるこの部分を見るだけで、監督の大体の力量を判断する事もできますしね。(偉そうにって?失礼しました(笑)。
今日は私が選んだ、タイトルが出るまでの「名招待状」の数々です。ポップコーン片手にご覧下さい。
まず何と言っても外せないのは、大好きな特撮映画。
順不同ですが、「吸血鬼ゴケミドロ」(1968年松竹 佐藤肇監督)なんて好きですねー。
赤い空をバックに飛ぶ飛行機。機内でテンポ良く描かれるキャラクター達。不穏な空気が支配する中、突如窓に衝突する鳥達。操縦席の計器異常。そして機上をかすめる、謎の飛行物体!
いやー抜群の掴みです。飛行機が飛んでいるのはここだけですからねー。あとはあの密室劇でしょ?実にうまいと思います。
「宇宙大戦争」(1959年東宝 本多猪四郎監督)も好きな作品。
1966年、地球上空に浮かぶ宇宙ステーションJSS3に突如飛来する謎の円盤。たった三機の円盤になすすべもなく破壊されるステーションというショッキングな場面です。
この演出で、円盤が敵である事、地球の科学力とは圧倒的な差がある事、そして今回の「戦争」は壮絶になるぞ、と、観客の興奮度を高める効果を与えていました。
怪獣映画では「大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス」(1967年大映 湯浅憲明監督)がお気に入り。
冒頭、海底火山・三宅島の異常活動が報告され、観測所で開かれた記者会見で富士山の噴火を示唆する所長。その直後噴火する「日本の象徴」につられ、飛来する「世紀の大怪獣 ガメラ」!
円谷英二氏へのエールとも言われるネーミングの、主人公栄一少年が叫ぶ「あっ!ガメラだ!」の声が、このシリーズの持つ明るさを象徴していました。
最近の作品ではやはり、金子修介監督作品は外せませんね。
「ガメラ 大怪獣空中決戦」(1995年大映)や、「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」(2001年東宝)などは、怪獣映画の王道を行く迫力に満ちていました。
金子作品で言いたいのは、「タイトル文字の出し方」ですねー。重厚感があるんですよ。いかにも「力入れて観てね!」的なメッセージが伝わってきます。
(デザイン学校出身の私は、そういう所にも妙にこだわりがあって(笑)。
次に私が好きなのは、「カルトの帝王」石井輝男監督の作品。
特に新東宝映画時代の諸作品は、淀川長治さんも絶賛した名作ばかりです。
戦後のアクション映画の一翼を確実に担った作品の数々は、そのオープニングもすばらしいものばかり。未見の方もいらっしゃると思いますので、中身を想像しながらご覧下さいね(笑)。
まず「凄いなー」と思ったのは、「女体桟橋」(1958年新東宝)。
この作品は、流麗に捉えた夜の銀座をバックに、思わせぶりな男性ナレーションで開幕します。暗黒街の住民が「東京租界・ポーカーストリート」と呼ぶ地域が、この銀座に存在する事を延々と語るナレーション。観客はここで既に物語に引きずり込まれます。
「ここに並ぶ高級車に、ひそかに差し込まれる桃色のカード。このカードこそ、肉体と交換される手形であり、東京租界のパスポートなのです。」
男性の皆さん、ちょっとドキドキしませんか?
「この物語に疑問をお持ちの方は、ポーカーストリートの一角に高級車を停めてお待ち下さい。東京租界へのパスポート、桃色のカードを手に入れるチャンスに恵まれるかもしれません・・・」車に差し込まれるカード。歩み寄る謎の男性。カードを開けると、(ここでナレーションは小声になって)「あなたは金髪の美女とお付き合いしたくありませんか・・・」
突然、鳴り響くビッグバンドの演奏と共に踊る、半裸の女性。そこにタイトル「女体桟橋」。
このドライブ感は、女性の感覚を持つ私でさえドキドキしてしまう、「掴み」の教科書のようなものですね。あまり知られていない作品ですが、観客を未知の世界にいざなう案内役として、このオープニングは非常に見事と思います。今だに私は、このオープニングを見たくてビデオをデッキに入れることがありますから。
他にも石井作品には、この監督にしか描けない独特の「リズム」があります。オープニングが一つの「曲」になっていると言うか。
「黒線地帯」(1960年新東宝)など、タイトル前のセリフは「あっ!」だけですよ(笑)。
後をつける、謎の男の存在に気づいた女性の発するセリフです。「黒線地帯」というタイトル後、渡辺宙明のアップテンポのタイトル曲に乗って小気味良く描かれる、逃げる女性、追う男のカットバック。
ここではもう、「あっ!」は曲の一部になっているんですね。
他にもアバンタイトルが作品の出来を保証する「黄線地帯」(1960年新東宝)「大悪党作戦」(1966年松竹)もおすすめ。
石井作品を語りだすときりが無いので(笑)、ちょっと趣向を変えて、テレビ作品を見てみましょうか。
テレビ作品は、一つのテーマを重層的に描ける利点があるので、「ウルトラQ」などのアンソロジーを除いて、印象的なアバンタイトルは少ないですね。
(「怪奇大作戦」(1968年)の「かまいたち」「狂鬼人間」なんてとんでもないアバンもありましたが)
その代わり、何と言っても耳に残るのが、毎回流れる「オープニングナレーション」。
今だに完全に記憶しているナレーションは「マイティジャック」(1968年)ですねー。
「マイティジャックとは。近代科学の粋をこらして建造された万能戦艦マイティ号に乗り込んで、科学時代の悪、Qから、現代社会を防衛する、11人の勇者達の物語である」
なんてカッコイイ!胸躍るナレーション!
このナレーションが冨田勲のテーマ曲と共に流れれば、もう全てOK!となってしまうのでした。
その感じで行くと、「ウルトラQ」の「これから30分・・・」という石坂浩二の名調子も、この部類に入るのでしょう。他にも海外ドラマの「トワイライト・ゾーン」「アウター・リミッツ」「謎の円盤UFO」(ムーンベースは月面基地!)「スパイ大作戦」など名ナレーションはいっぱい。名番組はやはり、「招待状のセンス」もいいんですねー。
さて、ポップコーンがコーヒーに変わっちゃいましたね(笑)。
今私が見ている途中の作品が、日本映画「豹は走った」(1970年東宝 西村潔監督)。アバンタイトルがなかなか良いんですよ。
ある国の革命の様子が写真で描写され、内乱の中、国外へ逃亡する大統領。その名は「ジャカール」。「JACGAR GET AWAY」と打ち出されるタイプの文字の後、赤文字でタイトル「豹は走った」。
加山雄三、田宮二郎主演のアクション映画です。「招待状」は受け取っちゃいましたから、最後まで付き合わないとね(笑)。
最近のコメント